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Oslo City Bike - ノルウェー・オスロにおける公共機関のデザイン事例

昨年度末に初めてnote書いた記事、いろんな方に読んでいただきうれしいです、ありがとうございました。

各方面の友人知人から、具体的な事例を掲載してほしい旨フィードバックを受けたので、先の会でDanHill氏がトピックスに取りあげていたノルウェー・オスロにおけるOslo City Bikeを題材にします。何かしらのインスピレーションとなれば幸いです。

Oslo City Bike(Oslo Bysykkel)とは

Oslo City bike (ノルウェー語表記:Oslo Bysykkel )は、名前の通りオスロの行政が運営に関わるシェアサイクルのサービスです。(冬の積雪シーズンのため、今現在はシステムはクローズ中です。)

市内中心部における自動車の乗り入れを規制することを目的としたオスロの政策に沿って、2015年にスタートした計画の一環ですすめられました。オスロではそれ以前から街の自転車はありましたが、2016年にUIP(Urban Infrastructure Partner Group)がプランニングを引き継ぎ、その4月にサービス全体のリブランディングを行いました。

Oslo City Bikeはオスロ市とOslo and Clear Channel Norway ASの共同事業です。自治体はOslo and Clear Channel Norway ASに対し公共の広告スペースを提供する見返りとして、自転車のためのスペースを取得します。また、自転車の所有・サービスの開発・バイクシェアリングのオペレーションはUIPが担当しています。


これは、前記事で記載した事業の座組に当てはめると、「民間企業と行政が溶け合い協力して解決していく領域」に該当します。

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写真:Haydays より引用

シェアサイクル市場について

シェアサイクルサービスと聞いてはじめに思い浮かぶのが中国のofoやmobikeかと思います。中国のシェアサイクルビジネスは、2017年頃から市場を爆発的に拡大しましたが、その後、破綻や経営悪化が相次ぎました。

ofoは、「どこでも自転車が乗れる」ことを謳い文句にしていましたが、自転車という物理的に存在するモノを文字通りどこでも制限なしに利用することは不可能でした。なぜならば、自転車の回収・移動・メンテナンスにかかる時間や人件費など、物理的な物を扱う故のコストがかかるからです。ofoの事業の失敗要因の1つが、この運用コストであったと言われています。

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”自転車の墓場”と呼ばれる自転車瓦礫の山
写真:wiredより引用

一方、Oslo City bikeは、現在も運用されており、市民や旅行者の交通手段として広く使われています。

2つのサービスを単純に比較することはできませんが、オスロのバイクシェアリングがうまくいっている要因は、テクノロジーをうまく利用し、短期的・長期的視点をもち、市民を街にエンゲージしていく仕組みづくりを行うことで問題を解決している点であるように思います。以下、自分が気になった点をいくつか紹介します。

1.オスロ市民の自転車であると言うネーミング

オスロ市の自転車であること明示的にネーミングし、「企業が所有している自転車(their bikes)ではなく、オスロ市の市民が払った税金で使われている私たち市民の自転車(our bikes)である」ことを表しています。

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写真:Haydays より引用

ネーミングによる効果は、シェアサイクルの利用を通して、市民の感じる街に対するエンゲージメントを向上するだけでありません。実利面でも、サービス運用のいちばんのネックとなる自転車のメンテナンス・運用コストを大幅に削減することに成功しています。

ofoやmobikeの場合、自転車は企業の所有物(their bike)です。サービスユーザーである市民は、企業の提供するサービス価値(シェアサイクルの利用体験)を享受する対価としてお金を支払います。ユーザーの責務は対価をもって完結されるため、それ以上の範囲を鑑みる必要はないと無意識に考えます。そのため、ofoでは利用者のモラル問題が会社経営にとっても大きなマイナス面を生み出していました。自転車の盗難や故障に伴うコストの負担が大きく発生しました。

 ”両社(ofo/mobike)が不振に至った要因と見られるのが、利用者のモラルの問題である。シェアサイクルは乗り捨てによる利便性が普及を大きく促した一方、路上に自転車が溢れるという大きなマイナスの側面も生み出していた。またそれ以前にも、自転車の盗難や破壊といったモラルに関する課題を多く抱えていたようで、オッフォやモバイクが危機に陥る以前にも、中国では小規模の事業者が自転車の盗難によって倒産するケースが相次いでいた。”
引用元:日経XTECH 

オスロの自転車もサービス利用者は対価としてお金を支払いますが、自転車は企業の所有物(their bike)ではなく、オスロ市の所有物です。「自分たちの税金で賄われている、自分たちの自転車(our bike)である」という関係性が前提となるため、対価を支払う上、無意識的に自分の自転車を丁寧に扱います。この扱いが積み重なり、メンテナンスコスト削減に繋がり、他シェアサイクルサービスと比較しても運用コストに大きな差がでているそうです。


2.自転車を修理しているのは元受刑者

Oslo city bikeのサービスは自転車を利用する市民にとってだけではなく、自転車を修理している人たちにとっても大きな役割を果たしています。

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写真:Haydays より引用

Oslo City Bikeは、チェック・メンテナンス・修理などを大規模なオペレーションで行う必要があります。その中で、自転車の修理を担っているのは、出所したばかりの元刑務所の人達です。服役中に職業訓練として自転車整備士のスキルを身につけ、出所後すぐに仕事を得ることができます。

元受刑者が出所後に長期的な仕事に就くことが出来ずに犯罪を繰り返す負のサイクルを防ぎながら、社会へ復帰することに役に立っています。社会的意義のある仕事を通して、社会性やチームワークを培い、元受刑者は安定的な生活へ戻ることができるのです。

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写真:mediumより引用

また、メンテナンスを行う場所は街中に点在しており、市民はその働きぶりを日常生活で目にします。社会に受け入れられる側の元受刑者・受け入れる側の市民の双方の関係性を深めるための仕組みのひとつです。この取り組みは、ビジネスとコミュニティの両観点から成功していると言えるのでは無いでしょうか。

3.オープンデータの活用

民間の企業が公的な事業を行う場合、一般的にデータは企業の資産であるため、他の企業にデータを展開することはほとんどありません。

一方で、Oslo City bikeは市が関わるサービスなので全てのデータをオープンに共有しています。具体的には10秒ごとのリアルタイムデータが見えるAPIや、月ごとの集計データ、iOS/Andoroidアプリ用のintegrationを公開しています。(※2020/02/22現在、サービスが運休中のためリアルタイムのデータは非公開)

データはこちらから

実際にググってみると、データを触っている人を見つけました。使用一回当たりの利用時間や、月ごとの移動距離、時刻ごとの利用数などを見ることができるようです。

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1日で各ステーションごとに使用されている自転車の可視化
引用:https://3min.io/lets-look-at-oslo-city-bike-data-490a60a024ce
この方が試しにデータを可視化しています。

例えば、このオープンデータをもとに地元の企業が別サービスを開発したり、他交通機関につながるサービスを展開することが可能となります。データがオープンになることで、都市のインフラとして健全なエコシステムを築くことができます。

4.情緒に寄り添うコミュニケーションデザイン

Oslo City BikeのVI(ビジュアルアイデンティティ)デザインは、オスロを拠点とするデザインエージェンシーHeydaysがデザインを担当しています。シンプルで明快、感情的で人間らしい強いビジュアルデザインは、見る人に瞬時にエンゲージメントを与えることのできる強力なツールです。

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写真:Oslo City Bike公式サイトより引用

また、自転車1つ1つにはオスロ市民の一般的な名前(例えばKrystof Andrej, Liv Marie,Karimなど)が3000種類もつけられており、自転車を擬人化することを試みています。実際に街住みCity Bikeを使う際に、自分や家族・友人の名前がないか探してしまいそうですね。

1つのサービスとして、ビジュアルアイデンティティやインタラクションを含むエンドユーザーの体験を適切に設計し実現させることも、この大きなプロジェクトを成功させるためには必要な要素であったのだと思います。

まとめ

Oslo City Bikeは、シェアサイクル提供のサービスを通し、市民の街への帰属意識を醸成しながら、市民が健康で安心して生活する仕組みを提供しています。サービスのリデザイン・新しいアプリ・新しいアイデンティティ・その他多くの改善を合わせ、自転車の使用回数を約140%増加させたこの施策によって、Oslo City Bikeは都市の新たなアイコンとなりました。

今回要点で紹介した1〜4のうち、どれか1つが欠けてもうまくいかなかったプロジェクトだったように思います。シェアサイクルが市民にとって街へのアクセシビリティを、物理的・心理的の両面で向上させている事例の紹介でした。

(私自身オスロに訪れたことがないため、実情と違うとのご指摘があればぜひお伺いしたいので、ご連絡お待ちしています。)

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