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小さなプロジェクトから大きな変化へ:自らが実践するプロジェクト

これまで、行政が中心となって市民とともに生活や制度をつくりあげていくプロジェクトを多く紹介してきました。一方で「私的衝動から公共性を生み出す、プロジェクト駆動の民主主義」の記事のように、市民の個人的なプロジェクトが、わたしたちの生活や社会を変化させていく変化のきっかけとなるようなケースも多々あります。

今回は、社会を変えるために自らが実践していた人々やそのプロジェクトに焦点を当てていこうかと思います。

小さなプロジェクトが大きな変化につながっていく

大きなスケールのシステムの変化は、その根底の部分に振れる小さなスケールの変化の積み重ねによって生じる
―Ezio Manzini. 日々の政治

ソーシャルイノベーションという言葉のイメージの中には、国や市町村の自治体がトップダウンで施策を行い、わたしたちの生活に勝手に反映されていくようなイメージもあると思います。一方でイノベーションの中にはトップダウンでスタートするものだけではなく、個人的な興味や関心から生活の課題やチャンスを見出し、新たな解決策を思いつき、その実践を行うことからスタートするような場合もあります。 

Ezio Manziniは「日々の政治」で、「システムの変化を生むソーシャル・イノベーションは、熱心な人達が集まる小さなグループから始まる」と言及しています。小さな取り組みは時の流れとともに活動が発展していくことで、社会へ対して影響を与えるようなより大きな取り組みへと変化していく可能性を持っているのです。

プロジェクトの初めの一歩として、デザイナーや建築家・アーティストなどを含む強い信念を持つ活動家などが、興味関心を他者に共有し新しい価値を模索するための実験として、自らが実践していくことから始まっていくケースも少なくありません。自分自身が主体者となり実践しプロジェクト参加者の一人ひとりが共通の成果(=ひとりひとりにとっても価値のある成果)のために手を取り合って行くことで、大きな社会的な影響へと伝播していくのです。

グリーンボムで空き地を美化する/Liz Christy Community Garden(ニューヨーク)

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かつてのLiz Christy Community Garden
コミュニティガーデンの歴史より)

アメリカでは1970年代の財政危機によって多くの地域が苦境に陥った影響で、差し押さえなどが頻発し、空き地や放置された建物が点在していました。Liz Christyは他数名メンバーたちとグリーンゲリラと名乗り、肥料・種・水を包んだ種爆弾(グリーンボム)を空き地に植え付けました。

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グリーンゲリラが公開していたシードボムのレシピ

この活動は、空き地を美化するだけではなく近隣住民の参加を促す草の根プロジェクトとして広がりを見せました。その後、グリーンゲリラらはその活動を認められ、NY市の住宅保存局からコミュニティーファーム&ガーデンを月1ドルという安価な価格で借りあげ、その場所が市内初のコミュニティガーデンとなりました。ガーデンの活動が社会的にも注目を集め、賞を受賞するようになると、コミュニティガーデンがNY市内でも広がっていき、グリーンゲリラは他のガーデンにも植物をシェアし始めました。

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現在のLiz Christy Community Garden

現在、NY市には5つの地区全てに数百のコミュニティガーデンがあり、様々な活動が行われています。参加している住民ボランティア園芸家も、年齢・経歴ともに非常に多様です。

園芸活動家たちの草の根的な小さな活動から、年月をかけてNY市全体に広がって活動自体がスケールし、都市全体にコミュニティと市民の関係性を作り上げた古いプロジェクトの1つです。


廃ガソリンスタンドを映画館に改造し、映画を上映する
/Assemble,The Chineroleum(ロンドン)

ロンドンを拠点とする建築家集団Assembleは2015年にリバプールの空き家改修のプロジェクトでターナー賞を受賞し一躍その名を轟かせたことで、日本でもご存じの方は多いかと思います。

彼らの最初に手掛けたプロジェクトは、閉鎖して使われなくなったガソリンスタンドを映画館に改造し、4週間に渡って映画を上映するという、公共空間を再生したプロジェクトでした。

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画像引用:https://assemblestudio.co.uk/projects/the-cineroleum

メンバーが50ポンドずつだしあい限られた資源のなかで行われたこの試みは、最終的に100人を超えるボランティアが加わりました。参加者たちはプロトタイピングの過程を通して作り上げたマニュアルを参考にしながら、全員が一緒に学び、プロセスそのものを実験しながら運営されました。

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画像引用:https://assemblestudio.co.uk/projects/the-cineroleum

まるで自らがクライアントであるかのように機会をつくり、重要で面白いと思う方向にプロジェクトを発展させていく。Cineroleum自体は一次的なポップアッププロジェクトでしたが、プロジェクトに対し当事者意識を持つこと・私事化していく態度は、彼らのその後のプロジェクトにも強く影響を与えているように感じます。ターナー賞をとったグランビーでのプロジェクトではメンバーの1人がグランビーに移住、グラスゴーのプロジェクトでも制作時間以上の長い時間をかけて地域のプランニングを初めたそうです。当事者意識をもったその上で、自分たちのやりたいことをベースとし、社会的価値に投資してくれる人や地方自治体などパートナーとなってくれる協力者を探しうまく協業できていることが、多くのプロジェクトが注目を集める一つのポイントとなっているのかと思いました。

街の空き家を希望者に貸し出す/ハウスハルテン:家守の家 (ドイツ・ライプツィヒ)

ドイツでは1990年に東ドイツ政権が倒れ、平和が訪れました。同じく東ドイツに属していたライプツィヒ出身のライナーミュラーさんは、民主主義・言論・報道の自由など幅広いテーマで民主活動をしていましたが、ベルリンの壁が崩壊した後、ライプツィヒに戻りました。

「大きな民主主義はこれで達成された。これからわたしたちは個々の現場で小さな民主主義をコツコツと積み上げていかなければならないと思った」
ー大谷悠.  都市の<隙間>から街を作ろう ドイツ・ライプツィヒに学ぶ空き家と空き地の使い方 .P.61

その後上位の言葉通り、ミュラーさんは東ドイツ時代に民主化運動に関わっていた人達を含めた仲間たちとNPO法人を立ち上げ、ライプツィヒの各所で地区の再生に力を注ぐことになりました。

その頃、90年代前半には不動産バブルがおこったライプツィヒですが、地価の高さから人口流出が起き、90年代に10年間で10万人の人口が減少しました。2000年時点での空き家率は20%超、東地域の一部の地区では50%となってしまいました。

ライナーさんたちは、民主化運動のグループがオフィスとして使っていた建物を管理する代わりに家賃を払わないという契約をしたり、メンバー数人が住んでいた家の中庭を彼ら自身で管理し始めたことをきっかけに、行政や所有者と交渉し、住民主体で空き地・空き家を活用するというモデルを立ち上げました

彼らのこの活動が大きくなり、ライプツィヒ市を通して所有者が暫定緑地(空き地)を住民に管理を委任するような仕組みや、「家守の家(Wächterhaus)」という空き家を利用したい人を募集し所有者と利用者のマッチングを行うプログラムを開始したりと、街全体の動きへと繋がりました。

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「家守の家」は、通常5年の期限付きで空き家を使用希望者に格安で貸し出すプログラムである。
引用元:日本の家, ハウスハルテン ―空き家再生のライプツィヒモデル 

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家守の家プロジェクトに応募し、ホステルとして運営されている物件。
画像引用元:https://suumo.jp/journal/2017/03/31/130719/

そのおかげもありライプツィヒでは、2000年代前半には人口が下げ止まり、2010年代前半には一転して大幅な人口増となりました。ライプツィヒの活動は今も前述のNPOや住民たちの活動につながっており、ミュラーさんらの市民運動活動家たちの魂が受け継がれています。

おわりに

今回は自らが主体者となりプロジェクトを実践した人たちの活動を紹介しました。関わり方や想い・プロジェクトのはじめかたなどはそれぞれですが、小さな行動から実践に移し、その成功が広がり、存在が「あたり前」になることで、社会システムや環境の変化へつながっていったのではないか思います。当然そこには、成功事例や本などには取り上げられていないような泥臭い仕事や思いがけない出来事があったにちがいありません。

今回事例としては取り上げなかったのですが、リパブリックさんが発行するMOMENTに掲載されているアメリカ・デトロイトの事例も、実践者たちが自らまちをつくり上げている様子とその苦悩がわかり、非常に良かったのでおすすめさせてください。   

自分たちがなにか小さな一歩を踏み出すこと、あるいは日々の小さな選択を行っていくことが、未来を切り開いていくのだといつも先駆者たちから勇気をもらっています。

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一般社団法人公共とデザイン
https://publicanddesign.studio/

Reference

・Ezio Manzini. 日々の政治
・Ezio Manzini. Making things happan , social innovation and design 
・大谷悠. 都市の<隙間>から街を作ろう ドイツ・ライプツィヒに学ぶ空き家と空き地の使い方
日本の家 
Assemble
・community of gardens. Liz Christy Community Garden
・The Central Dot magazine. パワー・オブ・メイキング〜「ともに創る」ことで社会を修復する〜 「生活圏2050プロジェクト」 #06(前編)

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