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「フィンランドが教科ごとの教育を撤廃する」というのは誤解です

ツイッターやブログで「フィンランドは教科ごとの教育を撤廃する」と書いてあるのを時々みますが、実際には撤廃という話はありません。

2016年から施行された学習指導要領では「教科を超えた学習」が強調されていますが、従来の教科ごとの学習に加えて行われるだけです。日本で総合的な学習の時間ができても従来の教科がなくならいのと同じです。

いったいどこから「教科を撤廃する」という話がでてきたのか、調べてみました。

誤解の例

Googleで検索すると、「フィンランドは学校で習う全ての教科を撤廃する世界で最初の国になる(Finland Will Become the First Country in the World to Get Rid of All School Subjects)」と言っているサイトがいくつも表示されます。

もっとも詳しく書いてあるサイトの一つで、ヘルシンキ市教育局の幹部マルヨ・キュッロネン(Marjo Kyllönen)氏が、
「個々の教科の代わりに、生徒は事象や現象を教科を超えて学習するようになる(Instead of individual subjects, students will study events and phenomena in an interdisciplinary format)」
と述べたことが分かりました。

なぜ誤解といえるのか

上のキュッロネン氏が言ったとされる内容のうち、「教科を超えた学習」は、2016年から施行された学習指導要領で強調されている概念の一つで、現実の問題を解決する際に、従来の各教科で習う知識を総合して使う力を身につけることを目的としています。

つまり、実際に教育の場で行われるのは、従来の教科の学習に加えて教科を超えた学習です。フィンランドの学習指導要領は約10年おきに改定されるので、少なくとも当面は、教科ごとの学習はなくならないでしょう。

上のキュッロネン氏の発言の中にある「事象や現象を対象にする学習」(Phenomenon-based learning)というのは、問題解決型学習(Problem-based Learning)の一種で、「教科を超えた学習」の実現方法の一つです。

誤解のおおもとは、2015年の講演

本当にキュッロネン氏が教科をなくすと言ったのかを調べていくと、2015年のハンブルグTEDxの講演にたどり着きました。講演の中で彼女が「教科を超えた学習」について説明するときに、「従来の教科を実質的に廃止する(we are practically scrapping traditional subjects)」という表現を使っています。

単なる言葉のあやかもしれませんが、首都の教育局幹部が言ったのだから、「フィンランドは学校で習う全ての教科を撤廃する」と誤解されてもしかたない表現でしょう。

信用できるソースを使おう

フィンランドの教育についてあまりにも斬新な話を聞いたなら、フィンランドの公的機関が提供する情報で確認する方がいいでしょう。例えば、

フィンランド国家教育委員会の基礎教育(小・中学校)についての説明では、どのような教科が教えられるのか述べられています。

また、フィンランド外務省が海外向けに情報を発信するサイトは、フィンランドの教育に関するありがちな誤解について答えています。


Photo by Brett Jordan on Unsplash



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