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科学の性質を教える理科授業

本記事は、オンライン読書会で読んだ本の内容と、参加者による議論をまとめたものです。理科教育 Advent Calendar 2021 の 18日目の記事を兼ねています。
今回、私が担当したのは Chapter. 4「Nature of Science and Classroom Practice」です。この章では、科学の性質を理科教育でどのように指導するかについてまとめられています。

科学の性質を理解することの重要性

科学の性質(Nature of Science, NOS)とは、科学がどのように機能するのか、科学的知識はどのように生み出されるのかといった科学に関する認識論的な特徴を指します(McComas et al., 1998)。NOSの中身については、様々な下位要素が提案されており、McComas(2020)は以下の画像のような分類を提案しています。例えば、下位要素の1つに「科学はその時点でもっともらしい説明を構築する営みであり、将来的に変わる可能性がある暫定性を持つ」といった性質があります。

NOSを理解することは、現代の科学教育の重要な目標の1つになっています(Lederman, 2007)。なぜなら、NOSを理解することで、科学の深い理解や、より良い意思決定などに貢献すると考えられているからです(Driver et al., 1996)。

近年はNOS理解の重要性が認められるようになり、多くの国のカリキュラムに含まれるようになってきています。また、PISA調査のような国際調査でも、その理解度が調べられるようになってきています。その結果、日本は国際平均と比べてNOSの理解度が低いことが明らかになっています。では、どのような指導を行えば、NOSの理解度を高めることができるのでしょうか?

効果的なNOSの指導の特徴

これまでの教育研究を通して、効果的なNOSの指導の特徴に関する様々な知見が蓄積されてきました。ここでは本章の流れに即して、「明示的な指導」「省察」の2つの特徴を紹介します。

明示的(Explicit)な指導

教師は、理科授業を通して暗黙的に、科学とは何かに関するメッセージを伝えています(Dibbs, 1982)。また、学習者は日常生活でメディアなどを通して科学(者)とは何かに関する概念を形成しています。しかし、このようにして形成されたNOSの概念は誤っている場合があり、後から修正することが非常に困難です(Clough, 2006, p.467)。そこで、NOSを指導する上では、NOSの理解を目標とした明示的な指導を行うべきだと考えられています(Abd-El-Khalick & Akerson, 2004)。NOSの明示的な指導とは、授業の目標の1つに、特定のNOSの要素を位置づけ、学習者がそれらを理解できるように授業をデザインすることを指します。

省察(Reflection)

省察とは、学習者が自らの学習活動を振り返り、実際の科学者の活動と対応付けることで、NOSの理解を深めさせる方法です。教師は学習者がNOS理解に到達するよう補助する質問をします。例えば、「科学の研究において、理論はリサーチクエスチョンや研究計画にどのように影響しますか?」と問うことで、学習者は自身の探究活動で理論がどのような役割を果たしたかを振り返り、理論の役割についての理解を深めることができます(Clough, 2011a)。

NOSの4つの指導方略

NOSの指導に関する先行研究では、先ほど紹介した有効な指導の特徴に加え、より具体的な指導法も検討されています。これまで、有効性が示されてきた指導法としては、「科学的探究(Lederman, 2007; Sandval, 2013)」「論証活動Bell & Linn, 2000; Yerrick, 2000)」「科学が関わる社会問題を扱う指導(Herman, 2015; Kolstø, 2001; Sadler et al., 2004; Zeidler et al., 2002)」「科学史を扱う指導(Clough, 2011b; McComas & Kampourakis, 2015)」などがあります。例えば、科学史を扱う指導方略では、ベンゼンの構造を解明したケクレの独創的なアイデアに関する歴史的なストーリーを紹介し、科学において創造性がどのような役割を果たすのかを理解できるようにしています。

NOS指導の困難度

学習者は日常生活を通じてNOS理解につながる萌芽的な内容を学んでいるため、それらを結び付けることでNOSの要素には理解が容易なものがあります。その一方で、下図のように、理論と法則の区別や科学の限界などは馴染みが薄く、理解することが難しいことが伺えます。このようなNOSの各要素が馴染み深いものかどうかは、NOS指導の困難度の差につながります。

また、NOSの指導は教師のNOS理解度や科学観に大きく依存し、教師によって指導の難易度が異なります。今後は、科学哲学や科学技術社会論などの関連分野の専門家と連携しながら、質の高いNOS指導の実現に向けて、国内でも活発な議論を行っていく必要があります。

Acknowledgement

Science Education Book Club in Japan」の皆様のおかげで、本章の内容について有益な議論を行うことができました。感謝申し上げます。

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