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【読書感想文】『両手にトカレフ』

新年最初の読書はブレイディみかこさんの『両手にトカレフ』でした。


ジャーナリストや脚本家、編集者の方々が集う2ヶ月に一度のオンライン読書会に参加させてもらっていて、その課題図書に挙がっていたことがきっかけでした。
(読書会の効用についてはまた別の機会に紹介したいと思います。)


〈あらすじ〉
イギリスに住む 14歳の少女ミアは図書館でカネコフミコの自伝に出会う。ミアと、100年以上昔の日本で生まれ育つカネコフミコ。生きる時代も国も違うのに、ミアは同級生の誰よりもフミコを身近に感じる。一方、学校では自分が背負う辛い現実を誰にも話せないと感じていたが、同級生のウィルにラップのリリックを書いてほしいと頼まれたことで、ミアの周囲との関係に少しずつ変化が生まれるー


読んで最初の感想は、さすがブレイディみかこさん!のひと言。


映画『ドライブマイカー』での家福と、ワーニャ伯父さんのように、主人公ミヤの住む世界と、ミヤが読むカネコフミコの本の世界が行ったり来たりしつつ、互いの境遇が重なり響き合う巧みな構成。


人は抑圧や虐待に晒されると声をあげることを臆してしまう心理状況は時代や国を超えて共通で、それゆえ確実に存在しているのに周囲から見過ごされ孤立しがちな構造を、声高ではなく、静かに熱く訴えるしなやかな筆致。


今回ピックした記事では、ミアやフミコが抱えてきた親や社会への反発を、幼い頃のブレイディさん自身も抱えてきたこと、また金子文子に逆境を乗り越える勇気をもらっていたことを知り、『両手にトカレフ』をより一層深く、共感して味わうことができました。

イギリスは貧困層に対しての社会保障が日本よりも進んでいて、ソーシャルワーカーのサポートや食事のフォローがある。けれど、それだけで救うことはできず、身近にいる人のあたたかさや、自身の現実を悲観しないメンタリティも重要。


ミアが体の成長に見合う服を買えず短いスカートの制服を着る、という表現も相まって、私の脳裏に浮かんだのは、
『セーラー服の歌人鳥居 拾った新聞で字を覚えたホームレス少女の物語』や『キリンの子』で注目された歌人の鳥居さん。


ネガティブな体験や感情は、創造性と出会うと、開花する。ミアがリリックを書く才能で人生に変化を起こしていったように、鳥居さんが俳句で世の中に声をあげていったように、
言葉を紡ぐ能力は社会を変える力になる。


私も、書こう。


そんな事を思いながら一気に(多分2日しないくらい)で読んじゃいました。

※日経xwomanアンバサダーブログより転載


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