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小説『幸せ』

あたいは猫。招き猫のぬいぐるみだ。

作ってくれたのは『おっちゃん』。
おっちゃんは、あたい達を高額で売り付けて生計を立ててる詐欺師だ。だからか、あたいはお金を呼ぶという『黄色』で『右手をあげている』笑顔の招き猫だ。

ここには、いっぱい兄弟が居た。寂しくなかった。でも、あたいは、もうすぐここを去る。

「縁起物です。一体10万で大金持ちですよ!毎度あり!」

売られたのは、あたいだった。みんな、バイバイ。元気でね。

ーーー

「今日からウチも大金持ちになるぞ~」
「これが、お金を呼ぶ猫ちゃんなの?」

ふふ。馬鹿面が二人もあたいを見てる。如何にも働いてません的な30代くらいの男と、その子どもかな。小学校中学年くらいの女の子だ。

「そうさ、一体10万もしたからな」
「お金があったら幸せだから、名前はハッピーちゃんにする!いい?おじさん」
「いいとも」

ーーおじさん、か。親子じゃないんだ。そりゃあ少々訳ありだね。あと、その名付けは破滅的にダサいぞ、おなごよ。

「じゃあハッピーちゃん、今日一緒に寝よう!」

その子は、あたいを抱くと、布団に入り、おやすみなさいと言って寝た。次の日からは、食事の最中や、トイレやお風呂までも連れて行かれた。その次の日もーー。

あれ。この子、学校行ってないんだ。
でも、その疑問の答えは意外と早く分かった。

「ごめんなさい!許して、おじさん!」
「生意気なガキだな!500円で俺の分の食い物くらい買えるだろうが!」
「わたしの分も欲しかったの!」

その時、パァンと殴られる音がした。

女の子は、酒が入った『おじさん』に暴力を振るわれていたのだった。お金が無いから、学校にも行かせてないようだ。

数日間、様子を見てたら、酒さえ入らなければ普通のおっさんだ。あと、殴ったり蹴ったりの後は必ず『もう、しないからね』と嘘をつく。碌でもないヤツのデフォだね。

ーーー

ある日、事件が起きた。

「おじさん!ハッピーちゃんを返して!」
「うるせぇ!何だこんな物!!」

あたいは思いっきり地面に叩き付けられて、踏み付けられた。あー、良かった。痛覚無くて。

「ハッピーちゃんは、駄目なの!!」
「こいつのせいで、10万飛んで行ったんだ!こうしてやる!!」

おじさんは、ハサミであたいの右手を切り落とした。
綿がボロボロ出て来た。
女の子は、狂ったかのような顔で、涙を流し、駆け付けてきて、あたいを庇った。

ねえ、おっちゃん。
あたいは誰かを不幸にする為に生まれて来たのかな。他のみんなも、こんな訳アリの家に買われるのかな。
あたい、笑顔だから泣けないよ。
悲しいよ。

暴力が落ち着いた頃、女の子は買い物に行く事になった。切れた右手と、あたいを抱えて外に出て来た。女の子は、行き先のコンビニで、

「この手を直す道具ありませんか?」

と尋ねていた。そのコンビニが子ども110番の家だった事もあり、警察、のちのち児童相談所も動く事になった。ちなみに、あたいの右手は、児相の人に習って、女の子が直してくれた。ちょっと不器用だけどね。

「ハッピーちゃんは、わたしが守るからね」

女の子の顔が、凛々しく見えた。

ーーー

それから十数年後の話だ。

「ランラランララーン♪」

歌を口ずさみながら、化粧をしている女性が居た。

「よし、眉毛OK!今日のプレゼンも上手く行きそうねっ♪」

この女性は、あの女の子なんだよ。今ではバリバリのキャリアウーマンになってるの。一人暮らし、いや、一人と一匹暮らしをしているんだ。

「それじゃ、行ってきます!ハッピーちゃん♡」

女性は、元気にあたいに手を振って出掛けて行った。あたいは、あの子を守りたい。
おっちゃん、あたいを笑顔に作ってくれてありがとう。

今日もあの子に幸あれと、笑顔で送り出せるから。
あたいは今、すごく幸せだ。


おわり。

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