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他人の骨を拾う

ふと、思い出した。

母と2人で行った、火葬場。

私達以外に人はおらず、通夜も葬式もなかった。

なくなったのは80才くらいのおじいちゃんだった。
母は確かその人をじっちゃん、と呼んでいた。

お見舞いには1度だけ付いて行った気がする。

母が着ていた服は丈が短く屈むと腰が見えた。

病室のベットで寝ていて、起き上がるのもやっと。
今にも死にそうな痩せこけたお爺さんは、
手を伸ばし母の肌に触れようとしていた。

幼いながらに、その行動に虫酸が走るような
嫌悪感を覚えた。

帰り道に私は母に言った
「あのお爺さん…ママの事触ろうとした。」

母はニッコリと笑って
「寂しいのよ。あの人だーれもいないんだよ。お見舞いにも誰も来ないの。じっちゃんが死んだらママと一緒に骨を拾ってあげようね。」

まだ小学生にもなってない私には 骨を拾う 
その意味が理解できなかった。

骨って落ちているものなの?そんな事考えながらも
底知れない恐怖のようなもので
母に対しては うん。としか返せなかった。

母は少し変わっていた。
子供を子供として扱わない時があった。

そしてじっちゃんは間もなく死んだ。

後から聞いたら飲み屋席で隣になった身寄りのない老人だった。

金も友達も親戚も、何もなかった。
県外に妹がいたらしい。骨は拾いにこなかった。

火葬場には黒い服を着た人しかいなくて、広い喫茶店が入ったようなロビーで母と待っていた。

誰かの笑い声が微かに聞こえた。

母と骨を拾った。 初めて人間の骨を見た。

よく砂利道で見つけた
かけ石に似ていた。

白とベージュが混ざったような。
スカスカの石。

2人きりで拾ったあの骨は今どこにあるんだろう。

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#コラム #骨


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