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視点『SHARE’S』E・Fチームの感想メモ

2023年3月18日に座・高円寺1で観た視点『SHARE’』E・Fチームの感想

視点『SHARE‘S』A・B、C・Dと観て、更にEの「やみ・あがりシアター」、Fの「肋骨蜜柑同好会」の舞台を拝見。また、違った劇団の個性に強く惹かれた。

・やみ・あがりシアター『背に描いたシアワセ』
作・演出:笠浦静花
出演:加藤睦望、小切裕太、内野智
五十里直子、安藤安按、谷川清夏
河原邦恵、吉成豊

何年か前に観た舞台の再演で戯曲に仕組まれた企みも知ってはいたが、そんなことを忘れさせ一から物語を追わせる力が舞台にあった。少しポップに誇張された語り口、コミカルな朝の家庭の風景がどこか昭和のホームコメディを観ているようで、またその中に観る側の時代感覚を迷わせるようなピースがあちらこちらにさりげなく差し入れられているのがとんでもなく上手い。「国鉄」なんて単語、今では滅多に聞かないし、分からない人も多いのではあるまいか。加藤睦望演じる女性のバイタリティや年齢を超えた実存感に目を瞠る。最初はさりげなく隠されしたたかに解かれる真実をちゃんと観る側の驚きにする戯曲やその演出にも、後半にその真実に対応しようとする家族や周りの主人公への引きずられ感にもグイグイ引込まれ閉じ込められる。
終演時には強かで良質なコメディをみたワクワク感がしっかりと残る。その上で、素敵に老いることや老人介護についてのステレオタイプにならないいろんなことが心を巡った。

・劇団肋骨蜜柑同好会『恋の手本 ~曾根崎心中~(令和版)』 
近松門左衛門の代表作のひとつ、木ノ下歌舞伎での上演も何度か観ていて筋立ては心得ていて、それもあってこの肋骨令和版を追うことができたし、その原点からの物語の引込み方にもデフォルメにも心惹かれる部分があった。ただ、その色付けというか、力加減や作り込み方が場面によってかなりばらついていて、シーン毎は伝わってきても、それが重なっての全体としての魅力に膨らみきれなかったような気がする。
途中にゴーンと鐘をつく仕草や音が挿入されるのは
「この世の名残り、夜も名残り、死に行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜、一足づつに消えて行く、夢の夢こそ哀れなれ。 あれ数ふれば、暁の、七つの時が六つ鳴りて、残る一つが今生の、鐘の響きの聞き納め、寂滅為楽と響くなり。」
と浄瑠璃に語られる道行から来ているのだろうけれど、曽根崎心中を下敷きにするのであれば、今風の語り口の中にもこの七五調の美学がもっとたっぷりに生かされても良いのではあるまいか。
ただ、曽根崎心中に紡がれた想いを今に引き出して見せようという作り手の心意気は買うし、こういう試みを繰り返す中でいつか訪れる新たな古典の面白さもあり気づきも生まれてくるのではとも思う。是非にチャレンジを続けて欲しい。

極めて個人的にではあるが、E・Fの2演目には観る側の記憶や知識を引き出して新たに供してもらえることの楽しみにがあった。それが1時間ずつのボリュームとともにやってくるのもこの企画の良きところだと思う。

座・高円寺B1

視点『SHARE'S』A・Bチームの感想はこちら
視点『SHARE'S』C・Dチームの感想はこちら
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