見出し画像

視点『SHARE’S』G・Hチームの感想

2023年3月19日に座・高円寺1で観た2023年3月19日に座・高円寺1で観た視点『SHARE’S』G・Hチームの感想

視点『SHARE‘S』4日目、最後のチームG・Hを鑑賞。過去3日間の観劇で受け取った果実のおかげか、受付でチケットを渡して渡してもらうとき既にドーパミンが滲みだすような感覚があった。また、そのドーパミンがしっかりと昇華するような舞台たちだった。

・アガリスクエンターティメント『令和5年の廃刀令』

脚本・演出: 冨坂友
出演: 淺越岳人、伊藤圭太、榎並夕起、
鹿島ゆきこ、古谷蓮、前田友里子、
矢吹ジャンプ、江益凛、斉藤コータ

劇場に入ると、パネルミーティングの態で正面に向かって机と椅子が並べられ、パネラーの名前と肩書が机の前に張り出されている。公共のホールであるせいか、その風景にまったく違和感がない。出席者が時に刀を携え、各々が席について。司会者の説明に一人遅れてきたりもして、開演。司会者役の女性がさりげなく戯曲に設定された「廃刀令」のことやその世界の現状なども観る側に解き明かし、その存続か廃止かについての討論が始まる。
この「廃刀令」という設定がほんとしたたかに今を引き出す。議論は賛成派と反対派に分かれ、それは、たとえば現実世界での夫婦別称や同性婚の如くリベラルな考え方とコンサバティブな考え方の対峙となり、互いの譲らなさがあり、その中にひとつの意見でその間を行き交う人物も現れて、会議を紛糾させていく。また、刀というものが武器であり問題が起きてもいるということがアメリカの銃社会とその中での意見の対立をとても分かりやすい感覚で想起させたりも。その討論に冨坂作劇の様々に磨かれた笑いの手練が紡ぎ入れられ、俳優たちが場面ごとをしっかりと舞台に編み上げる。ひとりずつの人物の作り込みの確かさにほんと委ねることができた。
当日パンフレットには「廃刀令」の賛否を問う投票用紙が入っていて、終演後観客は投票箱に賛否を投じることになる。私が観た回は「賛成60票、反対61票」と極めて僅差だった。他の回では賛成票が大きく上回ったりもしたらしい。そのブレに民主主義の脆さを感じたりもする。また、作品を通して、民意がまとめられることのどうにも処しがたい薄っぺらさも実感する。
これまでに何度も観ている団体だが、観終わって改めて表現や笑いのベクトルの多彩さや厚みにしっかりと繋がれた。あの、もはや刀の機能をなしていない刀の出現にも笑ったが、それを最後の投票時の条件というか但し書きに持ってくるあたりに、作り手の笑いの秀逸な粘り腰や踏み込んだテイストのつけかたを感じた。
実は、とてもシリアスな問題を内包していることに心捉われつつ、演劇としてたっぷりと楽しませていただいた。

アガリスクエンターテイメント 3月19日投票結果

・MU『変な穴(2023)』

脚本・演出: ハセガワアユム
出演: 青木友哉、成川知也、古市みみ
(以上、MU)
波多野伶奈、西村由花(青年団)、木村聡太
森口美香、榎本純、西川康太郎(ゲキバカ/おしゃれ紳士)
インコさん(実弾生活)

舞台には円形に椅子が並べられ、その中央には撮影ができるように三脚とスマホがおかれている。そこでインタビューが行われ、その内容が採用されれば100万円が贈呈されるという。そこに窮した人々が訪れ、撮影も行われインタビュアーはその姿やありようにこらえきれずに笑う。その構図は観る側のなにかをじわっと、時に強く逆なでし、ひといろならぬ感情も引き出し、だけどそれは単純にインタビュアーへの憎しみとか被験者への同情というだけのものではなく、自らをあざ笑うような問う側のあからさまな好奇心や高慢さへのかすかな同調とも嫌悪ともなり、問われる側の救いのなさや狡さへのやりきれなさともなって、それらが観る側の内にもその両側が存在していることへの気づきに翻り愕然となる。愕然とはなるのだが、だからと言って目を閉じ耳を塞ぐということにはならなくて、むしろその内に引き入れる引力に身を委ねてしまう。
作品自体は以前にも観ていて、その時にもどこかざわつきが残り穏やかではいられなくなってしまったのだが、今回はそのざわつきが丸まらないというか混沌に陥らず、俳優たちの人物造形が西川康太郎演じるインタビュアーの終盤の姿の研がれ方を見事に映えさせてもいた。それは観る側にとってもタフでありつつ、その内でタフさに埋もれない世界の息遣いを受け取らせてくれていたようにも思う。
観終わって、戯曲の力はもちろん、俳優たちの細微な感情を描く確かさとその先に浮かぶ人物の実存感がしっかり印象に刻まれていた。描かれているものには人間が抱く言葉にならないなにかのあからさまな姿があぶり出されているように思えた

視点『SHARE’S』,4日間の座・高円寺観劇で8団体を完食。その作品たちがいずれもしっかりと個性を持ち、主張をし、観る側にとって色が混じらなかったのは凄いことだと思う。
ショーケース的な部分の果実としてひとつずつの団体の今後の作品を観たいと思わせる力もあった。それはたとえば先日本多劇場で観たMrs.fictionsの『15 Minutes Made』などとは明らかに違う感触で、でも共に観る側に新たな演劇への期待を渡してくれる。

今回の2作品を含め全作品、本当に、楽しませていただいた。

座・高円寺 階段

視点『SHARE'S』A・Bチームの感想はこちら
視点『SHARE'S』C・Dチームの感想はこちら
視点『SHARE'S』E・Fチームの感想はこちら



2
この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!

気に入ったらサポート

りいちろ
舞台鑑賞好き。演劇、落語、ダンスも好物。 さくりさく企画名義で作る側のことにも手を染めました。 さくリさく企画 演劇を企画したり、協力したり、芸術に触れたり ・2018年2月 佐藤佐吉大演劇祭観劇ラウンジに5団体を招聘。 ・2019年8月 演劇公演『Solace』を企画・製作

❤😆👏
2



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?