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クリスマスマーケット-Café yorumachi-

今日はよく晴れていて、空気がとても澄んでいる。歩みを進めていくと、カフェにたどりついた。いつものように鍵を開け、自分のロッカーに荷物を入れて準備を始めた。

私はしずく、アラサー女子である。
Café  yorumachiというドイツ料理を提供しているカフェで働いている。
店長のラウラさんの元でコーヒーの淹れ方やドイツ料理の作り方を教わったり、お客様とのコミュニケーションを楽しんで日々過ごしていた。

「しずくさーん!こんにちはー!」
お店の常連の女子高生サラちゃんがお店に来るといつも座る席に座り、メニューを見ている。
「サラちゃん、いらっしゃい。今日は何を頼むの?」
「今日はねー、ココアかな!」
「寒い日にはココアは最高よね。」
「私もココア大好き。あ、そうだ!今日は、私のお兄ちゃんが遊びに来るんだ!」
「サラちゃんのお兄さんに会えるのね。楽しみ!」
サラちゃんはThe美少女という感じなので、きっとお兄さんも美男子なんだろうと思った。

「いらっしゃいませ!おひとり様ですか?」
「待ち合わせです。サラの兄です。」
お兄さんがやってきたようだ。お兄さんはやはり美男子で色素の薄い茶色い髪に薄い茶色の瞳、色白である。身長は高く、モデルのようなビジュアルだ。
「サラちゃんのお兄さん!いつもサラちゃんと仲良くしてもらってます、しずくと申します。サラちゃんはこちらの席です。」
私は今まで見た男性の中で1番かっこよくて見とれてしまったが、仕事中なので全力で接客に集中した。
「サラのお友達なんですね。いつもサラがお世話になってます。いつもしずくさんのお話はサラから聞いてます。」
爽やかな笑顔で話をしてくれた。そのままサラちゃんが居る席まで案内した。

「お兄ちゃん、来たんだね。何頼む?」
サラちゃんもお兄さんが来て嬉しそうだ。サラちゃんの向かい側の席にお兄さんは座り、メニューをお兄さんに渡した。
「ありがとう。じゃあミントティーで。」
お兄さんはドイツの定番であるミントティーを注文した。
「はい、かしこまりました。少々お待ちくださいね!」
しずくは笑顔で足早にキッチンへと向かった。

「ミントティーです。お待たせいたしました。」お兄さんの近くに優しくカップを置いた。
「しずくさん、ありがとう。」
お兄さんはまた爽やかな笑顔でお礼を言った。
「あのね、お兄ちゃんと今話してたんだけど、良かったら一緒にクリスマスマーケットに行かない?」
「え?いいの?私、クリスマスマーケットって大好き!ホットワインを飲んだり、ソーセージを食べたりしたいな。」
誘われてとても嬉しい。ドイツに小さい頃に住んでいたが、日本に帰国してからは1度もクリスマスマーケットへ行ったことがなかったのだ。
「じゃあ決まり。横浜に大きなクリスマスマーケットが来るの!来週の土曜日に行こう!」
サラちゃんが笑顔でそう言ってくれた。お兄さんと似た爽やかな笑顔で癒される。
「家族のせっかくのお出かけに私も行ってもいいの?」
私は行きたい気持ちはあるものの、急に仲間入りしていいのか不安になって確かめた。
「もちろん!楽しい方が良いもん!ね、お兄ちゃん?」
サラちゃんは私の肩を組みながら、お兄さんに話しかけた。
「しずくさんが良ければ、一緒に行きましょう!」
お兄さんはサラちゃんのことを見たあとに、私を見て言った。
「はい!ではお言葉に甘えて来週の土曜日、横浜のクリスマスマーケットへ行きたいです!」
「よーし決まり!14時に駅に集合して行こう!LINEのグループ作って招待するね!」
サラちゃんはお兄さんと私の手を取ってそう言った。
「よろしくお願いします!!」

土曜日の13時半、早めに駅に到着しウロウロしていた。
よくよく考えると、男性を交えてお出かけをしたことがないことに気付いた。
初めての男性とのお出かけの約束に緊張している。
早く着いて暇だったので、忘れ物がないかをカバンを見て確認した。
「ハンカチ、ティッシュ、財布、スマホ…大丈夫そうだね。」
あっという間に確認が終わるとまたソワソワしてきてしまった。
ブブーッとスマホが鳴った。スマホの画面を見るとサラちゃんからメッセージが来ていた。
「ごめーん!もうすぐ着きます!」
「集合時間より早いから大丈夫だよ。ゆっくり気を付けてきてね。」とメッセージを送った。

改札から出てまっすぐにこちらに向かってくる人がいた。お兄さんだ。
改札には人が結構いるが、背の高いお兄さんはひときわ目立っている。身長は多分180センチを超えているように見える。
「しずくさん、お待たせしました!ごめんなさい!」
小走りでこちらに来てくれたのか、少し呼吸が荒かった。なんだか嬉しくて笑ってしまった。
「何かおかしかったですか?」
「いえ、なんだか呼吸が荒かったので急いできてくれたんだなと思って嬉しくて…!」
「寒い中待たせてしまったので、走っただけですよ!申し訳ないです。」
「まだ集合時間よりも早いですよ?気にしないでください。」
サラちゃんもお兄さんも時間より早く来ているのに、丁寧に謝ってくれた。誠実な人達だなぁと感動していた。
「あ、サラから電話だ!」
そう言うと、お兄さんは電話に出た。
「もしもし?今どこ?」
「もう着いたよ!赤レンガ倉庫にいるよー!」
サラちゃんは駅に集合と言っていたのに、勘違いしてしまったようだ。どうやらもう赤レンガ倉庫に先に着いている。
「サラ、自分で駅前に集合って言ったじゃないか。しずくさんと僕はまだ駅だよ?」
「2人と違う沿線だから赤レンガ倉庫に行っちゃう方がいいかなーと思ったの!ごめんね!」
どうやらサラちゃんとお兄さんは兄妹だが別々に住んでいて、使っている沿線も違うようだ。
「もー、勝手だなぁ。じゃあ僕達もそっちへ向かうね!」
お兄さんは慌てて電話を切った。
「しずくさん、サラはもう既に赤レンガ倉庫へ着いたみたいです。これから一緒に向かいましょう。サラが始めに駅に集合だと言ったのにごめんなさいね。」
「いえいえ。サラちゃんが行きやすい方がいいから大丈夫です!じゃあ、向かいましょっか!」
お兄さんは困った顔をしていたが、また優しい笑顔へと戻った。

赤レンガ倉庫までは徒歩10分程度の距離だが、クリスマスマーケットのシーズンの土日はとにかく混んでいて、見失いそうなくらい人がいた。
「しずくさん!大丈夫ですか?!」
既に混みすぎていて、お兄さんから離れてしまった。満員電車ぐらいの混み具合で、赤レンガ倉庫へ無事にたどり着けるか不安になるレベルであった。
「お兄さん!ごめんなさい!はぐれそうです!」
私はお兄さんの高身長のおかげで何とか見失わずに済んでいたが、はぐれるのは時間の問題だと思った。

「しずくさん、こっち!」
お兄さんは私の手を握った。男性の手を握るなんて最近の記憶には無いくらいには久しぶりで、驚いた。
「は、はい。ありがとうございます。」
動揺しながらも冷静なふりをして、お兄さんに言った。
少しずつ進みながら、赤レンガ倉庫のクリスマスマーケットへと向かった。
その間にお兄さんはレオという名前だということ、サラちゃんとは頻繁に会っていること、クリスマスマーケットが好きなこと、お互いがドイツに縁がある事などを話した。
レオさんは私より1歳上だということが発覚し、お互いに距離がグッと近付いている気がする。
ブブブッとレオさんのスマホが鳴り、電話に出た。
「サラ?今どこ?」
「お兄ちゃん!今ね、クリスマスマーケットの入口にいるよ。来れる?」
「わかった!もうすぐ着くよ!」
レオさんがそう答えると、電話を切った。
「しずくさん、サラは入口にいるそうです。もうすぐ合流出来ますね!」
レオさんは安堵した様子で言った。

「しずくさん!お兄ちゃん!こっちこっち!」
サラちゃんは嬉しそうに大きく手を振った。
私とレオさんも手を振り、サラちゃんの方へと駆け寄った。
「サラー!駅で待ち合わせって言ったでしょう。これからは勝手に行かないでね!」
レオさんはサラちゃんに軽く叱るように言った。サラちゃんは悪びれる様子はなく、どんどん歩いていった。
「ソーセージ食べよう!」
サラちゃんの提案でソーセージをひとつずつ購入し、ホットティーを飲みながらお店を見て回ることにした。
「くるみ割り人形!可愛いねー!」
サラちゃんはテンションが上がって、ピョンピョン跳ねながら話をしている。
私たちはクリスマスマーケットの楽しい雰囲気に浸っていて、はしゃいでいた。

一通りお店を見終わるとサラちゃんがアイススケートをしたいと言った。
「私全然出来ないけど、それでも良ければ…。」
「じゃあ僕と一緒に回りましょう。よくサラとアイススケートをしていたので、得意なんですよ。」
イケメンで性格も良くて、スポーツも出来る…。完璧過ぎてもはや感動していた。
「あれれ?2人ともめっちゃ仲良くなってるじゃん!2人で滑ったら?私は1人でスピード出して滑りたいから!」
「サラちゃんも一緒がいい!足でまといになってごめんだけど、お願い!」
あまりにも完璧すぎるレオさんと2人で居るのは不釣り合い過ぎると感じて、サラちゃんも一緒に居た方が良いと思った。
「気が向いたらね!ほら、早く靴借りに行くよ?」
サラちゃんに誤魔化された感じがありながらも、料金を払ってからスケートシューズへと履き替えた。
サラちゃんはすぐに履き終わり、先にスケートリンクへと行ってしまった。
「待ってー!サラちゃん!」
私はアイススケート初心者ということもあり、上手く履くことが出来なかった。
苦戦しながら履いているとレオさんが来てくれた。
「サラが置いてっちゃってごめんね。上手く履けた?」
レオさんはサッと私の足に手をかけて、靴紐を結び直してくれた。
「ありがとうございます!すみません、上手く出来なくて。」
「初めは出来なくて当たり前だから気にしない、気にしない。しずくさん、立てる?」
レオさんが手を取ってくれたので、立つことが出来た。だがバランスが悪くて、グラグラと揺れながらスケートリンクへと向かった。

日が暮れて夜になったこともあり、スケートリンクはイルミネーションやクリスマスマーケットの灯りで幻想的な景色が広がっていた。
「わー!綺麗ですね!」
私はいつもより大人しめにそう言った。男性と2人きりで夜景を見ること自体が緊張しているからだ。
「とっても綺麗だね。暗いから足元気をつけて。」
さっきから手を繋いだまま歩いているのも緊張していて、手汗をかいていることがレオさんにバレないかヒヤヒヤしていた。
「よし、スケートリンクについたね。じゃあ壁につかまって、まずは立ってみよう。」
スケートリンクから降りるのが怖過ぎて初めの一歩が出なかった。

「大丈夫だよ。僕につかまりながら、壁も持ってみて。」
優しくそういうとレオさんはどこも持たずに余裕で立っていた。
「えっ!えっ!待って!怖い!無理!ケガ!」
恐怖からいつものテンションの高い自分に戻ってしまい、大声で単語だけをひたすら叫んでいた。
「大丈夫、大丈夫。支えてるから。」
微笑みながら私の目を見て言ってくれた。

ぐらつきながらもようやく立つことが出来て、私は喜んでいた。
「出来ました!これで今日のミッションは達成です!」
レオさんは頷きながら笑顔で話し始めた。
「しずくさん順調だね。ミッションは一緒に滑ること。だから、このまま滑ろうか。」
今度は私の両手を取り、壁から離れるように動いた。
「壁がないのは無理です!怖い怖い!」
「両手を持って、足を八の字にしてみて。ゆっくりでいいからね。」
レオさんは優しく先生のように説明しながら私の手を引っ張った。
レオさんの分かりやすい指導のおかげでだんだんと自然に滑れるようになってきた。

「あれ?2人とも楽しそうね!しずくさん滑れるじゃん!」
サラちゃんがからかうように、私たちに話しかけてきた。
「レオさんに教えてもらって、滑れるようになってきたよ!」
「お兄ちゃん、しずくさんと滑るの楽しそう!これ、デートじゃん?」
サラちゃんはさっきよりももっとニヤニヤしながらレオさんの方を肘でつついていた。
「サラが居るからデートではないね。次回は2人でスケートリンクに行く約束をしようと思ってたんだけど、しずくさん来てくれる?」
私とサラちゃんは驚いた顔で見つめ合った。
「是非!沢山デートしましょう!」
私は勇気をだしてレオさんに言った。

「はい。次はどこに行くか考えましょうか?」
そう言うと私の手を取って、再びスケートリンクを滑り出した。

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