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股関節の4つの可動域制限とは

今回は一般的な股関節の評価である可動域の解釈をまとめていきます。
この記事では、

・4つの可動域制限タイプがわかる
・大腿骨頭の位置と周囲の軟部組織の状態が予測できる
・タイプごとのよくある運動器疾患がわかる

これらを目的にまとめましたのでぜひ最後まで読んでいってください。



基礎知識

骨頭周囲の解剖


骨頭周囲の解剖学を簡単に復習します。
重要なのは骨頭がみえない、簡単に触れられないということです。

同じく骨頭をもつ肩関節と比較するとわかりやすいです。肩関節は骨頭の前方偏位がすぐに分かりますし、触って確認する事ができます。
しかし股関節は骨頭に直接触れづらいため、大転子を介して骨頭の位置を予測することになります。

なぜ骨頭の位置が大切なのでしょうか?
骨頭の位置がわからないということは、関節運動の中心がわからず、生じている関節包内運動や骨頭周囲で起きている異常(可動域制限や疼痛など)が捉えられないということです。
肩関節や股関節では骨頭の求心位の保持が重要となるので、しっかりと位置を確認しておきましょう。



また股関節の前方は靭帯組織が多く、後方は筋組織が多いです。
つまり解剖学的に屈曲方向にはある程度動かなければならず、伸展方向にはある程度で止まらなければいけません。
非常に雑にまとめると、屈曲が硬い・伸展が柔らかすぎる、のはなにか異常があるということです。




頚体角・前捻角

続いて骨頭自体の解剖を確認していきます。
大腿骨頭には頚体角と前捻角があり、重要な意味をもっています。

頚体角
頚体角は骨幹軸と頚部軸のなす角で成人正常値は125~130°です。
機能的には、レバーアームとして外転筋効率を高める役割があります。

頚体角が大きいとレバーアームが短くなり、筋による支持力は低下し、骨での支持を求められます。これに臼蓋形成不全が加わると、関節の適合面が減少し、圧力が分散できず変形性股関節症となります。
頚体角が小さいとレバーアームは長くなりますが、大腿骨頚部への剪断力も増加するため、結局どちらも骨への負担は増えてしまいます



前捻角
前捻角は骨頭を真上から見たときに、どのくらい前方へねじれているか、の
角度です。成人正常値は14°前後で、女性は大きく、男性は小さくなりやすいです。
女性で前捻角が大きいと骨頭が前方へ抜けてしまうので、大腿骨を内旋させて骨頭をはめ込むことが多いです。逆に男性で前捻角が小さいと、はまり過ぎて前方で詰まってしまうため大腿骨を外旋させることが多いでしょう。また後述するFAIとの関連も大きいです。



骨運動と関節包内運動

屈曲や伸展、内外旋などの骨運動は、関節包内運動である滑り・ころがり・軸回旋を伴います。今回は滑りにフォーカスして骨運動をまとめていきます。
凹凸の法則に従って骨頭を凸・寛骨臼を凹とすると、
屈曲は骨頭の後方下方滑り、伸展は骨頭の前方上方滑りとなります。
内旋は前方にころがり後方へ滑るため、関節包内運動としては屈曲の仲間の骨運動となります。そして外旋は後方へころがり前方へ滑るため、伸展の仲間の骨運動となります。
また今回はあまり登場しませんが、外転は下方滑りのため屈曲の仲間、内転は上方滑りのため伸展の仲間となります。



可動域評価

前置きが長くなりましたが、ここから4つのパターン別に可動域制限をまとめていきます。頻出する疾患も一緒に確認しておきましょう。

屈曲+内旋

屈曲位での内旋で制限や疼痛などエラーが出るパターンです。よくあるケースとしては、男性で鼠径部の詰まり感を訴えるパターンがあります。関節の要素から確認していきます。
まず、屈曲・内旋どちらの骨運動も後方滑りの関節包内運動が必要です。ですので最初の仮説として、骨頭が後方へ滑れない・骨頭が前方偏位しているのではないかと考えます。後方・下方滑りのアプローチで改善が得られるかチェックしましょう。また屈曲位外旋筋群(大殿筋後部・内外閉鎖筋)の過緊張によって後方への滑りが阻害されていることもしばしばあります。
この制限パターンでは骨盤後傾アライメント、前捻角は小さい、男性であるケースが多いです。

頻出疾患としては腰部脊柱管狭窄症やFAIなどが挙げられます。
腰部脊柱管狭窄症に関してはアライメントの特性からも理解しやすいかと思いますが、狭窄症によくみられる骨盤後傾アライメントから上記のような股関節の状態になることが多いです。

FAI(Femoroacetabular impingement)は大腿骨頚部または寛骨臼の骨形態異常によって股関節動作時に股関節前方でのインピンジメントが生じる病態と定義されています。
原因としては骨頭から頚部にかけての骨性の隆起、臼蓋前縁の過剰な被覆が挙げられます。
骨頭と臼蓋前面の距離を適切に保つために、骨盤側と大腿骨側からアプローチしていく必要があります。


伸展+外旋

伸展位(うつ伏せ)での外旋制限がみられるパターンです。よくあるケースとしては骨盤前傾の強い女性で、股関節前面のつっぱり感を訴えることが多いです。
関節の動きとしては伸展・外旋どちらも前方滑りの要素があります。つまり最初の仮説としては前方に滑れない・骨頭が後方偏位していると考えることができます。まずは骨頭前方滑りのアプローチで改善が得られるかチェックしましょう。
また筋の要素としては大腿直筋や大腿筋膜張筋の過緊張によって制限が生じていることもあるので柔軟性評価も合わせて行いましょう。

伸展+外旋の制限パターンでは最初にも書きましたが、骨盤前傾位の女性で、前捻角が大きいケースが多いです。また過度に大腿骨の内旋が見られるケースでは臼蓋形成不全であることもしばしばあります。

臼蓋形成不全では大腿骨の前捻角・頚体角が大きい場合、基礎知識の項でも触れましたが亜脱臼のような状態となり、関節の適合面が減ります。そして狭くなった関節面で荷重を受けなければならないため、関節変形が進行し、変形性股関節症となります。



伸展+内旋

伸展位(うつ伏せ)での内旋に制限があるタイプです。
関節包内運動としては伸展は前方滑り、内旋は後方滑りのため、関節内の動きはそこまで大きな要素にならないと考えられます。そこで周囲の軟部組織を考えると、股関節伸展位にて外旋に働く梨状筋や屈曲筋である腸腰筋・大腿直筋などが主な制限因子となり得るでしょうか。

頻出疾患としては梨状筋症候群などが挙げられますが、次のタイプでも出てくるため解説はあとに回します。


屈曲+外旋

屈曲位での外旋に制限があるタイプです。関節包内運動としては屈曲は後方滑り、外旋は前方滑りのため、このタイプでも関節内の動きはそこまで大きな要素にならないと考えられます。そこで重要となるのが屈曲位での内旋筋群の過緊張です。主に梨状筋・大殿筋前部・中小殿筋前部、大内転筋などが挙げられます。

さきほど内旋の制限因子として登場した梨状筋が外旋の制限因子としても挙げられていますが、これは梨状筋が股関節の屈曲角度によって走行が変化し、作用が変化することに起因しています。
梨状筋は股関節90°以下では外旋筋として働き、90°以上では内旋筋として働くため、2つのタイプで制限因子となっています。
頻出疾患は梨状筋症候群が挙げられます。骨盤アライメントは立位では前傾位をとることが多く、座位では後傾することが多いように臨床的には感じます。



代償動作

今回は可動域評価の解釈を中心にまとめて来ましたが、最後に股関節の可動域評価時に起こりやすい代償動作をまとめて終えようと思います。
股関節の屈曲動作には腰椎骨盤リズムがあり、純粋な股関節の屈曲は90°前後しか生じないと言われています。そのため、80°以上の屈曲動作の際には骨盤の後傾を見逃さないように、対側下肢の動きや腰椎の動きに注意する必要があります。また左右の仙腸関節の動きや脊椎の側屈などもよく見られます。
また反対側の股関節に伸展制限があると、すでに骨盤が前傾した状態で評価が始まっている可能性もあるため、対側の可動域や背臥位姿勢をきちんと整えることも重要となります。
こういった初歩的な部分で見落としがあると評価結果に差が生まれ、実際の患者様の状態とセラピストの認識にズレが出てきます。評価の再現性には常に注意を払いながら行いましょう。


いかがだったでしょうか?
股関節の制限タイプを大まかに分けることで短い評価時間でも患者様の状態をうまく把握できるようになると思います。

ここまで読んでいただきありがとうございました。また次の記事も読んでいただけると嬉しいです。

参考文献

「股関節の動きを運動学的視点から考える」,市橋則明,2011

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