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「出雲王国」に関する書籍や情報への解釈

こんにちは、「私が妄想した日本古代史 」のシリーズ、前回に「出雲族こそがヤマトの開拓者だった!」と言う記事を公開しましたが、ここからは古事記や日本書紀にも登場する有史の時代に入り、色んな書籍や伝承や風説が溢れているため、主な書籍や情報に対して私がどのように見ているかの解釈を記しておきます。
原典にご興味がない方は読み飛ばして下さい。

日本書紀

言わずと知れた日本最古の正史です。天皇の命によって公式に編纂されたという点から、史学会では聖典のような扱いになっているようですが、編纂時の政権の認識による誤解や偏向や美化があることに注意する必要があります。ただし、原文を読むと編纂者は残存している伝承を忠実に記録しようと真摯に努力した姿勢が随所に読み取れますので、陰謀論のような改ざんや創作は殆どないと捉えています。
出雲に関しては、神代に神話として登場する他、崇神天皇記に祟り神として登場しますが、「国譲り」を受けたヤマト王権の側の美化が強いようです。
私は宇治谷孟先生による全現代語訳を読んでいます。理系の私には漢文は読めないので、とても有難いです。

古事記

古事記も日本書紀と同時期に天皇の命によって作成されたものですが、公式な歴史書としてではなく、概要をわかりやすくまとめた入門書のような位置付けです。日本書紀と比べると、筋が通っていてわかりやすいのですが、そこが稗田阿礼の思い込みによる脚色や改変であるように感じ、目が曇って史実から遠ざかってしまうため、私は基本的には見ません。日本神道の思想書として読むのはとても良いと思いますが、古代史研究には全くお勧めしません。

出雲と蘇我王国(斉木雲州)

この本をご存じの方はとても少ないと思いますが、これは2019年に発刊された「出雲口伝」と呼ばれる出雲王家の伝承を記したと自称している書籍です。古代出雲からヤマト王権の成立、継体天皇と蘇我氏までの古代史を、当事者の1人である出雲王家の視点から、記紀に記されていない背景や内情が記されています。
古代からの民間の口伝を21世紀に民間人が記した非公式な文献なため、学会では「偽書」または「風説」として否定される文献にあたると思います。私も当初は疑いながら読んだのですが、かなりの史実が含まれている模様で、今は学術資料として超一級品だと捉えています。
特に研究者の方には、偽書や風説の類だと頭から否定なさらずに、是非ともご一読をお願いしたい書籍です。日本書紀や考古学の知見と突き合わせて読むと、表裏の両面から古代日本の真実が見えてきて、何度も目から鱗が落ちる思いをします。

魏志和国の都(勝 友彦)

上記の「出雲口伝」を民間の歴史研究家の方が分かりやすく書き直された書籍です。斉木雲州氏の書籍は難解なので、一般の方にはこちらの方をお勧めします。研究者の方にも、原著は難解なため、こちらを副読書として参照されることをお勧めします。

出雲王国とヤマト政権(富士林雅樹)

上記の「出雲口伝」を読まれた民間の歴史研究家の方が、その内容を分かりやすく整理し、著者ご自身が研究されて大幅に補強された書籍です。
一方、出雲口伝を大幅に補強されているにも関わらず、どこまでが出雲口伝でどこからが富士林氏による補強なのか区別がつかないため、研究者の方には全くお勧めしません。原著の方をお読み下さい。

古代出雲歴史博物館、荒神谷遺跡、加茂岩倉遺跡、西谷墳墓群

「百聞は一見に如かず」と言われるとおり、古代出雲に興味がある方には必見です。研究者の方には、実際の荒神谷遺跡、加茂岩倉遺跡、西谷墳墓群も必見だと思います。遺跡の実物だけでなく、遺跡の位置や周辺の地形や神名火山の眺望などを肌で感じると、遺跡の「意味」が大きく変わりますので。

「カミの支配」から「人の支配」へ(原一征)

荒神谷博物館でボランティアガイドもされている地元の歴史研究家の方による自費出版の書籍です。荒神谷博物館で購入しました。
古代出雲について書かれた数多くの書籍や地元の発掘調査報告書などを集め、古代出雲の人々の文化や信仰などをわかりやすく描かれた書籍です。上記の「出雲口伝」に記された文化や信仰とも合致しており、素晴らしい考察だと思います。多くの方には入手困難な自費出版であることが残念で、どなたか電子書籍化などで普及していただけないかと思います。

古代出雲(門脇禎二)

著名な日本古代史研究者であられる門脇禎二先生による学術書の文庫版です。1984年の荒神谷遺跡の大発見を受け、自らの古代出雲論を見直して論点整理しようとして1987年に発刊された力作が底本です。同先生は畿内の葛城地方の古代史に特に詳しく、出雲の神名火山信仰が畿内の葛城山・金剛山や三輪山の信仰に繋がっているなど、出雲と初期ヤマト王権の関係にも迫った素晴らしいご研究なのですが、上記の出雲口伝を知ってから読むと、ここまで解明されていたのに、ここが解けなかったのかと、残念に思う点が散見されます。

逆説の日本史(関裕二)

皆さんご存じ、作家の関裕二さんによる人気の書籍シリーズです。大変に面白いので、古代史に興味がある方にはお勧めします。分析力が非常に素晴らしく、学会で主流とされている学説への疑問や逆説の組み立てなどは多くを学ばせていただいています。ただ、私は文献史学よりも民俗学や比較神話学の方を重視しているため、結論を導く過程で異論があり、異なる結論に至ることが多いです。
関裕二さん以外にも、松本清張さんなど何人かの作家の方が古代史を深く探求され、卓越した分析力により独自の仮説を構築して書籍化されており、楽しく勉強させていただいています。

その他

  • 出雲大社… 飛鳥以降に建立された神社だと見られ、逆しめ縄や御祭神の向きなども出雲族の信仰ではなく、これらに纏わる説は古代出雲には関係ない風説です

  • 神無月/神有月… 出雲神話でも神道でもなく、神無月の意味を知らない人が文字面から創作した風説です

  • スサノウ、因幡の白兎、浦島伝説… いずれも出雲神話ではなく、出雲族とは異なる民族が持ち込んだ神話だと捉えています。タニハ王国やヒボコの方に関係しているようです。

  • 出雲国風土記… 第一級資料ですが、出雲王国に関わることはタブー視して排除したようで、残念ながら出雲王国の研究には殆ど参考になりません。出雲地方の地理や地勢を知る上では、良い資料だと思います。

  • 中国の史書… 残念ながら明らかに出雲のことだと思われる記載はなく、出雲は中国や朝鮮半島とは関わっていなかった様です。

  • 徐福伝説… 史記の記載なので史実性はありそうですが、記紀には登場しませんし考古学上の痕跡もなく、日本の各地にある伝承は平安時代以降に流行した英雄伝説ではないかと疑っています。

  • 学術論文・学術記事… ネットで検索して見つけた論文や記事は、なるべく勉強させていただいています。公開をありがとうございます。

  • 出雲系の神社… 畿内や諏訪や丹波を含め、出雲系の御祭神を祀られた古社は廻らせていただき、ご由緒や伝承などを勉強させていただいています。古代からの伝統を守られている宮司様や地元の皆様には、深く尊敬と感謝を申し上げます。貴重な記録や伝承が現代社会に埋もれて消えてしまう前に、是非ともネット上にご開示・記録いただけないかと切望いたします。

  • 民間の歴史研究家、愛好家の方々の発信… いつも楽しく拝見させていただいています。中には非常に緻密に調査・分析されている方や、地元に残る貴重な伝承や風習などを発信されている方もおられ、多くの情報をいただけることに感謝しています。

多くの情報を書籍やネットで容易に閲覧できる、良い時代になったものです。全ての著者・発信者の方へ、深く感謝いたします。

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