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本に愛される人になりたい(39)福沢諭吉「学問のすゝめ」

 学生時代に、何の脈略だったか、「『学問のすゝめ』って面白いよね」と知人に語ると「福沢諭吉なんか庶民を見下して差別も酷いのに」と難癖をつけられたことがあります。
 確かに、「無学なる者は貧者となり下人となるなり」などと現代では首を傾げるような言葉が散見されるのは否めません。ただ、明治時代初期の、未だ江戸時代の封建主義を引きずっていたであろう時代に発行されたことを考え、その時代感覚に身を置けば『学問のすゝめ』が背負ったその時代の意義や福沢諭吉という人物の偉大さを感じずにはいられません。
 『学問のすゝめ』は、明治5年2月から9年11月までの5年ほどの間に、17編の小冊子をまとめたもので、初編が約20万部も発売されたとは驚きです。
 歴史年表を見れば、その後の日本は近代化を邁進したのを誰もが知っており、『学問のすゝめ』はその一助となったと考えるのが歴史教科書的な考えですが、『学問のすゝめ』が発行された時点はまだ近代化のとば口で、日本がどのような近代国家になるかはまだ見えてはいなかったはずです。その後に『坂の上の雲』の問いかけが始まります。
 幕末からの混沌とした時代を超えて新たな時代を求めるための、一つの考え方(福沢諭吉としては西洋実学の批判的摂取でしょうか)を示した『学問のすゝめ』は、やはり重みがあったはずです。出版された時代背景に読者目線を置き、落ち着いて歴史的な書籍を読むことの面白さも、『学問のすゝめ』から教えてもらいました。
 2023年2月。経年劣化甚だしい政治経済社会構造に喘ぐいま、新たな『学問のすゝめ』が出てきても良いかと考えているところです。中嶋雷太

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