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悲しきガストロノームの夢想(68)「魚を食べる前のお話」

 久しぶりの「悲しきガストロノームの夢想」シリーズの投稿となりました。
 日本という国は、海に囲まれた島国だということを、忘れていることがあります。湘南・片瀬海岸に住んでおり、毎日海辺を歩いているにも関わらず、そんな私でも、島国だということを、すっかり忘れています。日々の生活を営むのに、「島国だ」といちいち確認することもないので、仕方がありません。
 農林水産省の資料を読んでみると、私たちの食の日常風景が見事に変化しているのが分かります。一人当たりの年間消費量を見てみると、昭和35年(1960年)では牛肉・豚肉・鶏肉はそれぞれ1キロにしか満たなかったのが、令和元年(2019年)には牛肉6.5キロ、豚肉12.8キロ、そして鶏肉13.9キロとなりました。では魚(食用魚介類)はというと平成13年(2001年)に40.2キロでピークとなってから減少し平成30年(2018年)には23.9キロになったようですが、この年間消費量は昭和30年(1960年)とほぼ同様だそうです。
 日々の生活の食にまつわる感覚では、牛肉・豚肉・鶏肉ばかりが目につきますが、おおよその比率で考えると、魚24:鶏14:豚13:牛7となり、私たちはかなりの魚肉好きなはずで、やはり海に囲まれた島国なのだと感嘆します。
 ところが、魚を食べる前の調理風景はとても遠のいてしまいました。鶏や豚や牛ならば仕方がないでしょうが、魚もまたトレイに並べられ透明なラップで覆われた切り身が魚というものになりました。魚屋さんの数も減少しており、魚屋さんで一尾の魚を三枚におろしてもらい、サクやアラを調理方法に分け楽しみ尽くす文化もほぼ無くなってきたようです。
 私も、ともすれば、スーパーで魚の切り身を買って調理する方が楽なのですが、時々、気に入った魚を一尾買い、魚屋さんで三枚におろしてもらい、帰宅すると包丁を手に、これから食べたい料理をイメージしながら、サクやアラをさらに切り分け、小分けにし、冷凍庫に保存します。
 先日は、その日の朝獲れの黒鯛二尾とメジナ一尾を購入し、翌日は、黒鯛の昆布〆めとあら汁を堪能しました。
 昭和30年(1960年)は、魚24:鶏1:豚1:牛1の比率だったはずで、私の身体は魚肉から得たたんぱく質がたっぷり満ちているはずで、海に囲まれた島国に住む者として、これからも色々な魚を堪能したいと考えています。中嶋雷太

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