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私が書いた物語のなかから(12)「時を、消す」から

 2018年夏に物語第一作「春は菜の花」を発行してから4年を超えました。自分が観たい/製作したい映画や演劇の基本となる物語を書こうと決めたのは、2017年の年末でした。
 1990年のWOWOW立ち上げに番組プロデューサーとして参加し、国内外の映画や演劇などにビジネスとして携わり、さらにアカデミー協会、グラミー協会やブロードウェイのトニー賞主催団体のブロードウェイ・リーグやアメリカン・シアター・ウィングといった団体の方々とも出会いつつも、長年、足腰の強靭な映画や演劇とは何で、方法論としてどうすれば良いのだろうかと考えていました。脚本に入るその前の何かなのは分かっていましたが。
 ある日、十代の頃から夢想し書き溜めていたロング・シノプシス的な物語があったのを思い出し、ある雑誌の元編集長だった知人に話をしたところ、小説ではなく、物語を書いてデジタル出版してみればという助言を得て、WOWOW在職中でしたが、物語第一作「春は菜の花」を書き上げ、デジタル出版しました。デジタル出版をすることで、著作権を明確に発効することも目的としてありました。
 そして、この「春は菜の花」を元にして小編映画『Kay』(監督:鯨岡弘識)を製作し、2022年4月下北沢トリウッド、7月名古屋シネマテーク、そして11月大阪シネマセブンと、劇場公開となっています。
 前置きが長々となりましたが、およそ一年ぶりに発表した新作(本年11月)が「時を、消す」です。(前作は、2021年12月に発行したハードボイルド三部作の三作目「両手でそっと、銃を置く」でした)
 長年、時間とは1秒1秒刻まれるものだ(デカルト的時間感覚)とか、過去と現在と未来があるものだ(宗教的時間感覚)という常識に違和感を感じていて、それを物語にできないかと考え続け、時間に関連する書物などにも多々目を通し、ようやく書き上げたのが「時を、消す」となりました。
 本作品のなかで、主人公の黒野サトルは次のように語ります。

「そうだ。小春さん。『今』というのは存在しないという話を聞いたことがありますか?」
「え?『今』が存在しない?」
「そうです。『今』というのは、そもそも存在しない。これは、私の父が教えてくれたんですが」
〈「今」は存在しない。この一瞬一瞬はすぐに過去へと過ぎ去っている。そして、きっとこうなるだろうという予定調和の「未来」を描き、その「未来」がすぐにやってきて、過去となる。「今」とは人が勝手に決めたもので、過去と未来を繋ぎ合わせ、心を安心させるための時間感覚でしかない〉

 時計修理職人として、日々時計と向き合う主人公・黒野サトルにとり、時間とは単にチクタクと刻むものではなく、一人一人に宿る、伸び縮みするものです。
 さて、あなたの時間はどのように過ぎゆくのでしょう。一度立ち止まり、静かに考えてみるのも良いかもしれません。中嶋雷太
 追記:「時を、消す」はBCCKSやAmazon、楽天等主要デジタル・ブック・ストア計13のストアで順次配信中です。印刷本はBCCKSにてお顔求め頂けます。ぜひお読みください。
 https://bccks.jp/bcck/175038/info

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