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本に愛される人になりたい(47) ドン・ジェームス写真集「SURFING SAN ONOFRE TO POINT DUME/ 1936-1942」

 書棚の膨大な本を整理していると忘れ去った本に出逢い、しばし手にとりあれやこれやと思いを馳せてしまい、整理がなかなか捗らなくなります。まるで考古学者のようです。
 本書もその一冊。
 2000年代初めにL.A.に住んでいたころ、ウェスト・ハリウッドにあった古本屋さんでこの写真集を買ったはずです。今、書棚には何十冊もの写真集が眠っていますが、この写真集は多くを語ることもなく、密やかに書棚にこっそり眠っていました。
 1936年から1942年までの、南カリフォルニアのサーファーたちの日常を切り取ったセピア色の写真を集めたものですが、その一枚一枚の奥にある物語を想像しては、タイムリープを楽しんでいたのを覚えています。
 ハワイで発祥し、ようやく南カリフォルニアで楽しみ始められたサーフィン、そしてサーフィンを巡るカルチャーのなんでもないシーンばかりですが、第二次世界大戦が1939年に起こり、サーファーたちもまた時代に翻弄されていきます。映画『ビッグ・ウェンズデー』で、ベトナム戦争の影が大きくサーファーたちに覆い被さったのを想起させます。
 この写真集のページを一枚一枚めくりつつ、単なるノスタルジーではなく、南カリフォルニアという太平洋の波が押し寄せる海岸線の長いビーチで、繰り広げられていた一抹の青春の鼓動を、小一時間ほど私は手のひらで楽しんでいると、心はビーチに寝転んでいます。そして、書棚にそっと収め、何年後かの邂逅を楽しみにする私がいます。中嶋雷太

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