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私の好きな映画のシーン(29)「34丁目の奇跡」

 2019年の年末、審査員を歴任している国際エミー賞授賞式に出席するためにニューヨークに数日滞在していました。街は、感謝祭からクリスマス・シーズンへと装飾が変わり、6番街の西40丁目に開設されたブライアント・パークではアイススケート・リンクをクリスマス・オーナメントの屋台が囲んでいました。
 真冬のマンハッタンをぶらぶら散歩したホテルへの帰途、ホテル近くにあるメイシーズ百貨店に立ち寄りました。ここはコスター&バイアルズ・ミュージック・ホールという劇場が昔あり、1896年4月23日の夜、エジソンが初めて映画を映写した場所だと、プレートに刻まれています。
 これまで何十回もニューヨークにやって来ましたが、百貨店にわざわざ立ち寄ることはしませんでしたが、この時は、ホテル近くということもあり、クリスマス・オーナメントも綺麗だったので、ふと覗いて見ようかと思いついただけでした。館内に入ると、1902年の開店時から動いている木製のエスカレーターがあり、ガタン、ゴトンと音を立てつつ、どこか懐かしい世界にワープしているような気持ちになりました。
 「どこかで、この雰囲気を感じていたはずだ…」と思いつつ、ある階に辿り着くと、クリスマス・オーナメントのなかに、『34丁目の奇跡』(1947年)のポスターが飾られていました。
 「なるほど!これだ!」と、木製エスカレーターに乗っていた私が感じていた懐かしさの理由が分かりました。『34丁目の奇跡』(1947年)の舞台がこのメーシーズ百貨店だったのを、私はすっかり忘れていたわけです。
 この作品はクリスマス映画として、これまで四回もリメイクされているのですが、この最初の作品の背景にある1940年代のマンハッタンの魅力は何にも変えられぬ雰囲気があります。
 ストーリーはネタバレになるので、ぜひ本作品を観て頂きたいのですが、
サンタクロースの別名クリス・クリングル)を名乗るある老人がサンタクロースに扮してメイシーズで子供たちを喜ばせますが、ある事件をきっかけに、妄想癖があると断ざれ、ある裁判にかけられます。奇跡が起こらない限り老人を助けられないと判事が弁護士に伝えますが、何万通ものサンタ宛の手紙がその老人に届けられていることを証拠として提出します。そして、その老人の姿は消えますが、老人を信じていた女の子に奇跡が…、という話です。
 さて、私が好きなシーンは、この老人が通りを歩いていると店先で、店員がクリスマスの飾りとしてトナカイを並べているのですが、その位置がおかしいと老人が店員に声をかけるシーンです。映画の冒頭近くの何気ないシーンなのですが、この作品のエンディングまでに繋がるストーリーの軸がはっきり描かれています。一見、妄想狂的なこの老人を、観客も疑いの眼を深めていきますが、このシーンがあってこそ、「やがて…」というエンディングを迎えることになります。
 せっかくのクリスマス・シーズンですから、ぜひ1947年製作の『34丁目の奇跡』をお楽しみください。 中嶋雷太

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