「わたしを利用してくれてありがとう」--何にも繋がっていない人生なんて、想像もしたくない。
6月11日、カート・ヴォネガット・ジュニア著『タイタンの妖女』ハヤカワ文庫、読了。
「比喩の森の中のけもの道をかき分けかき分け歩いているような読み心地。」
と、タイタンの妖女を読み始めたすぐの頃私はTwitterに投稿していた。
この小説は荒唐無稽な事柄で埋め尽くされているが、どれもこれも、大切なことについて語られている。物事の本質が語られている。これから読む方は、どうかそこが地球でも、火星でも、水星でも、タイタンでもまたはどこでも構わないから、場所にはこだわらないでほしい。重要なのはどこか、ではなく、人がその状況に陥ったときに何を考え、どんな行動をするのか、なのだ。
これは「愛」の物語。
お金も権力もあり他人を意のままにできるが、人から信頼されることも愛されることも知らない男が長い長い宇宙の旅の果てにきらりと光る何かを見つける話。
これは「運命」の物語。
人は運命から逃れられるのか否かを問うた物語。ビアトリスが予言された最悪の運命からうまく逃げおおせたと思った瞬間に捉えられる場面は鮮やかで且つ、かなりぞくっとさせられる。
これは「宗教」の物語。
「神は、あなたに何が起ころうと気にされていない。神は、わざわざあなたを殺そうともなさらないかわり、わざわざあなたをここへ無事におくりつけようともなさらない」という《徹底的に無関心な神》という真理の話。
これは「戦争」の物語。
そして「権力」の、「友情」の、「哲学」の、「美学」の、物語。
「親子」の、「夫婦」の、物語。
私は水星とタイタンでの物語が好き。
こんなに冷笑的でユーモアにあふれていて、滑稽でいとおしく、
誰も彼もが残酷な流れの中で絶望的に不幸で。
抗えないそうなるべく成っている力の中に「意味」を見つけたり見失ったり、放棄したり拾ったりしながら、
こんなに人を感動させられる小説を、私は知らない。
「わたしを利用してくれてありがとう」
ーー何にも繋がっていない人生なんて、想像もしたくない。
私を利用してくれて、ありがとう。
好むと好まざるとに関わらず、そう言える人生ならば、100点満点だ。
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