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絶対に信じない男VS.信じ込ませようとする女

「圭司」
 呼ばれて僕は彼女を振り返る。
 褐色の長い髪を髪留めで一纏めにした薄化粧の女は、あの、独特で意味深な笑顔を浮かべている。
「なに?」
「わかっているでしょ?」
 褐色の瞳は、なぜか僕に蛇を思い起こさせた。湧き出る唾を飲みこむ。
「なにを?」
 怯んでいるのが自分でもわかる。
 彼女が僕に一歩詰め寄る。
 カールした後れ毛が目に留まる。ついで腕組みした上に豊満な胸を乗っけて威圧してくるさまは、畏れ多さで拝んでしまいそうになる。
「大丈夫だから、信じて」
 僕はまたも唾を飲みこむ。
 実際、そうなんだろうな、と思う。
 言葉を信じて大丈夫なんだろうな、と思う。
 でも…。
 不意に、サタンが左耳から囁きかける。
 こいつの話を信じるな。絶対に信じるな。信じたら地獄へ落ちる。甘い言葉に騙されるな。
 僕は尻込みする。
「絶対に、嫌だ」
 両手を翳し渾身の力で、バリアを張ったつもりだった。
 なんでも良い。とにかく、これ以上寄せ付けてはならない。そうでなければ、そうでなければ……。
 魔除けの呪文の如く、決め台詞を唱える。
「絶対に無理」絶対に、信じない。
 決死の覚悟で立ちふさがる。彼女の思うとおりにはさせない。
 戦う準備はできている。
 とうとう彼女は本性を現しはじめた。
「わかっていると思うけれど」
 なぜか、僕は彼女が次に言ってくる言葉を想像できた。
 前もそうだったから。
「予防接種を受けてくれないと、鬼滅の刃のカード付お菓子は買わない」
 実にエグイところをついてくる野郎だ。
「……」
 実に汚い。
 さらに止めは、
「圭司がそのつもりなら、ママは圭司が病気になってもしらないから」
 ああ、神様。いつになったら、彼女の魔力から逃れるようになれるのでしょうか。
 

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