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D-Genes 5 【短編小説】

「なるほど、それこそ、俺たちに罪を着せるってわけね。まてまて。俺たちが裁判とかでSTR配列のデータベースについて証言したらどうなる?そんなデータベースを大っぴらにしたら、例え俺たちだけのせいになっても、困るだろ。ヘテロ社はデータベースの存在も隠したいはずだろ?」

「いや。多分、『公然の秘密』にしたいんだろ」

「なんだそれ」

「要は、裁判では俺たちの罪と判定されたが、世の中の皆さんはヘテロ社にSTR配列のデータベースがあるって気がついてる。ヘテロ社にとってそんな状態が望ましいって事だ」

「そうか、もしもそのデータベースで人を脅すならそっちの方がいいか。公的には罪を流れて、影響力だけ持つ。賢い奴がいるな」

「賢くて悪くていけすかない奴だな」

「じゃあ俺たちにわざわざ依頼したのは……」

「まあ、『STR配列を勝手に収集して、大企業に売りに来た愚かな哀れなベンチャー』って筋書きにしたかったんだろ。一度は社内に赴いた記録やらがあると、その説も説得力が増す」

「ヘテロ社が俺たちを冤罪にする気なら、証拠はどうするつもりだろう?」

俺はカルのデスクトップを見た。

「カル、パソコンのデータを確認してくれ。もしかしたら……」

カルは俺の言葉を聞いて勢いよくキーボードに向かった。

数分間、無言で集中している。

そして顔を上げた。

「……あるね。STR配列のデータベースがバッチリ。俺たちのパソコンの中に」

俺はタバコを切らしたのでコーヒーに口をつけた。

低い声でカルに言う。

「パソコンのセキュリティはどうなってる?」

「万全のつもりだけど。毎回OSは最新にしてるし、ウィルス対策ソフトも最新。それに俺は生物学専門とはいえ、最低限の情報学のリテラシーはあるつもりだぜ?」

「じゃあ、多分俺だ」

「はい?」

「この前、見たことないアドレスのメールの添付ファイルを開けた。その時にもしかしたらヘテロ社の冤罪用証拠セットを仕込まれたかもしれん」

カルは立ち上がって椅子を蹴った。

「てめえ!ふざけんな!セキュリティ知らないんなら勝手にパソコン触んな!てかなんで偉そうなんだよ!」

「落ち着けよ、カル。とりあえず、すまん。それとタバコ買ってきてくれ」

「謝り方!土下座以外認めねえぞ!あとタバコは自分で買えや!」

「だから落ち着けよ。謝ってるじゃないか」

「だから謝ってる言い方じゃ……わかった、もういい。刑務所に打ち込まれたら、お前を殴る」

「刑務所なんて行きたくないだろ?」

「どうすんだよ」

「だから言ったろ、政治家のSTR配列のデータを手に入れるのさ」

「おいおい、それで冤罪逃れの対策が政治家のゲノムデータをハッキングするってことになるのか?本当に犯罪者になるだけじゃねえか」

「ヘテロ社を脅すのに使うんだよ」

「は?」

「俺たちの仮定が全部合ってるとすれば、奴らはデータベースを、『公然の秘密』にしたいはずだ。『公然の秘密』にするためには、つまりみんなヘテロ社が悪いと思ってるのに公式には俺たちを有罪にするためには、それはもう沢山の権力を抱き込まないといけないはずだ。警察、司法、そして政治家だ。多分、ヘテロ社のスポンサーになってる政治家がいるはず。ならばそいつのSTR配列を手に入れれば、相手はそれなりに脅威を感じるはずだ。こいつら、何をするか分かったもんじゃないってな」

「ずいぶんと危ない橋を渡るじゃねえか」

「教えてやるんだ、奴らに。俺たちはただの羊じゃねーぞってな」

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