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D-Genes 7 【連載小説】

ヘテロ社の首根っこはアラカワ トウジという議員だった。

「厚労省の元官僚、58歳。古い世代の公務員には珍しく、Ph.D(博士号)を持っている」

俺が言うと、カルが興味を示した。

「へえ、何が専門なんだろう?」

「パブリッシュされている論文を見ると、分子生物学のようだな」

「分子生物って、それは広すぎてわからないな。論文見せて」

カルは俺がプリントアウトした論文をひったくった。

「ああ、これはなかなか、古き良き時代だね」

「どういうことだ?」

「短い塩基配列を調べた論文だね。サンガー法!すごいや。俺が生まれる前の手法だ」

「特殊な論文なのか?」

「いや。今の技術なら一週間で終わる内容だね。昔はごく一部の短い塩基配列を決定するだけで一苦労だったって話さ。ただ、まあ大体30年くらい前の論文だからね。当時は最新の技術だし。多分、結構いい研究室にいたんだろうね。結局厚労省に入っているし、エリートだ」

「ふむ」

カルはアラカワの経歴が記載されたファイルを開いた。

「厚労省時代にヘテロ社に出向しているね」

「だな」

「こいつがヘテロ社を支援するスポンサーかな」

「ほぼ間違いない」

「ヘテロ社がアラカワにお金を出しているのかな。それとも逆にアラカワがヘテロ社に?」

「多分、どちらも違うだろう」

「じゃあ、どういう?」

「アラカワは遺伝子事業の新規参入が厳しくなる法案を出し、結果、成立している。今この国で遺伝子事業を始めようと思ったらかなりの初期投資と税金が必要になる」

「ヘテロ社にとってはそれでいいんだろうけどさ、アラカワは利益があるの?」

「さあね。だが、ヘテロ社がこれから悪さをするなら政治家を抑えておくのが一番いい。立法権があるし、なにより政治家という肩書だけで交渉事は有利に進むしな」

「なるほど。それにアラカワは適任だしね。技術にある程度理解があって、ヘテロ社にいたことがあって、現役の議員とくれば」

「さて、ここからは二手にわかれよう」

「いや、もともと情報集めは俺が一人でやってたけどね」

「お前はこれからアラカワの遺伝子検査のデータをハックする」

「簡単に言ってくれるよな。まだどこのデータベースに情報があるかもわかってないじゃんか」

「十中八九ヘテロ社だ」

「うへぇ。俺なら絶対STRのデータベースを集めようとしている企業なんかで遺伝子検査しないけどな」

「あるいはそれがアラカワがヘテロ社に協力する理由かもしれないぞ」

「報酬と脅しね。飴と鞭だ。で?マコトはどうするの?」

「俺は足を使うさ」

「はい?」

「アラカワの情報が足りないからな。実地で調べてみるよ」


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