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D-Genes 2 【短編小説】

「ねえ、マコト」

「なんだ?」

「あのさ、蹴ってもいいか?」

「どういう意味だ?」

「お前の尻を蹴り上げてもいいかってきいているんだけど」

「なんかの比喩か?」

「暗喩でも直喩でもない。まっすぐそのままとらえてくれればいいよ」

「俺の尻を蹴っていいか訊いているのなら、だめに決まっているだろう。常識でモノを考えろ」

俺がこういうと、カルは叫んだ。

「誰かさんが常識知らずなことをするからこんなことになってるんですけど!!」

パソコンを見る。そこにはわが社の顧客リストと株価が表示されている。

「おいおい。叫んで何か状況が好転するわけじゃあるまい」

「マコトがGENUS HETERO社にケンカを吹っ掛けたおかげでこんなことになってるんじゃないのか?」

「前に言ってた『敵対的買収を仕掛ける、俺たちの事業を徹底的にパクる、顧客を狙い撃ちで巻き取る』を全部やってきたな」

タバコをくわえた。最近本数が増えていけない。俺は火を右手に言う。

「お前も賛同したろ」

「したけど…あんな危険な代物とは思わなかった」

俺たちが受けたのは、この世で一番危険なコレクションだった。

「マコト。お前が言った事前情報、まちがってたよね」

「だな」

「おい…」

「お前に話した時、『設計』だと思ったのは、ヘテロ社の連中が秘密保持契約を結びたがってたからだ。そういう場合、ほとんど遺伝子デザインの仕事だからな」

「実際は違ったわけだ。くそっ。首を突っ込んだのがそもそもの間違えだ」

「後の祭りだよ。それに悪いことばかりじゃない。これは奴らの明確な『弱み』だ」

「マコト、流石にこれは良くないよ。これは正直、考えたくもないようなことだよ」

「まあ、正直まともな人間が考えそうにないことだよな…」

「これは犯罪捜査を根底からひっくり返すことになりうる」

「はあ、そして知ったからには俺たちもただじゃおかないと。そりゃそうか。あいつらなんのつもりなのかね。レアカードのコレクション?」

「冗談じゃないぜ、こりゃ。もしもこんなことが実際にやられてしまったら、プライバシーは無くなるし、冤罪だって作り放題じゃないか?」

「世界中の人間のSTR(short tandem repeat)配列情報の収集。要は個人を同定するDNAの配列」

「どんな裁判だってDNAっていう物的証拠をひっくり返すことはほとんどねえ。もしも犯罪の証拠捏造とかに使われたら…」

「確かにな。データさえあればDNAの合成自体はヘテロ社が簡単にできるし、もしそんな用途で使い出したら相当やばい」

「てか、もうそういう風につかうんだろ、これは。あるいはそう言ってお偉いさんを脅すとか」

「権力者やら政治家のSTRを手に入れたら3億円、ってか?遊戯王じゃねえんだから」

世界一の遺伝子事業の企業ひにわざわざ出向いた俺たちは一つの依頼をされた。

それは、世界中の権力者のDNA塩基配列情報にアクセスすること、そしてSTRという犯罪捜査で個人の特定に使われる領域のデータベースを作るということだった。

世界を脅すことができるDNA塩基配列のコレクション。

そしてこれを得る為には不正アクセス、個人の塩基配列の閲覧…まあ控えめに言って犯罪のオンパレードを進まなくてはならない。

カルは言う。

「言わんこっちゃない。言ったろ?俺たちはトカゲの尻尾にされるって」

「コモドドラゴンの尻尾にしては俺たちは小さすぎるな」

カルが苦い顔をするのと対照に俺は笑った。

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