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D-Genes 6 【短編小説】

俺たちはまず、自説があっているかの裏どりから行なっていった。

そしてヘテロ社につながる政治家を洗い出していく。

情報収集はカルが主に担当した。

「カル、少し休め」

「馬鹿言うな。休んだらあっという間に警察行きだろ」

カルは少し怒ったような口調で言ったあと、こう付け加えた。

「たいしたことなくても俺はこの会社の唯一のエンジニアだからな」

普段の態度はデカいし、高慢なことろがある。しかし驚くほど自己評価に関しては謙虚だ。

当然だが、俺はカルの腕を信用しているし、高く評価している。

俺がこの会社を設立するときにカルに声をかけたのは、生物学と情報学両方に精通しているからだ。

それは俺達の事業に必要な技能だったし、カルは適任、それ以上の人材だった。

しかしカル自身の評価は違うらしい。

曰く「俺くらいの技術者や研究者なんて腐るほどいる」とのことだ。

さらにカルはこうも言った。

「俺はある程度の能力と専門性がある。それは希少じゃない。だから身を置く場所を考えるのさ。自分が希少になる居場所をな」

カルの言う居場所として、我が社が適しているかはわからない。とはいえ、これも当然だが、カル以上の技術者はうちにいない。

俺は正直に言って不思議だった。俺は別に遺伝学も生物学も情報学も専門知識はない。だが、ビジネスをやる上で技術者には沢山会ってきたし、どう見てもカルはその中でも上位のエンジニアだ。なぜカルはここまで自分に対する評価が低いのだろう?

「カル。前も訊いたがなんでそんなに自分を評価していない?お前程の腕がある人間なら多少なりとも自惚れがあるはずだ」

「前も言った通り、俺ぐらいのやつはごまんといるんだ。威張っても仕方あるまいよ」

「いや、そうじゃない。今いうのもなんだが、何故俺が誘った時、断らなかったんだ?お前なら、それこそヘテロ社でも働けた」

にやりとカルは笑った。

「ホントに今言われても困るな」

キーボードを打つ手が止まる。

「まあ、お前の興した事業がおろしろそうだと思ったのが一つ。あとは…」

「あとは?」

「お前が自由そうだったから。お前に誘われる前はそうじゃなかったからな」

そう言ってカルはまたキーボードに手を置く。

俺は言った。

「まあ、この件失敗したら、どのみち刑務所行きで自由ないけどな」

「なんてこと言うんだ」

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