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接客は和解と救済 ~「接客無双」鳩胸つるん~


刺激にまひしたマンガ界に現れた異色作

 少年ジャンプ+で連載中の接客ギャグ漫画「接客無双」(鳩胸つるん)、待ちかねた単行本第一巻が発売されました。

 私はこの漫画を溺愛しています。えこひいきです。もちろんジャンプ+だけで見ても優れたマンガは他にいくつもあります。それでもなお、この「接客無双」は今こそ、たくさんの人に読んで欲しいと心から思います。

 それはなぜか。ここ数年、いやはるか昔からそうだったか。大ヒットするマンガというのはだまし合い・殺し合いなどの過剰に刺激的な物語がやけに多いと感じます。別にそれが悪いと言っているわけではありません。私自身もそういった作品が決して嫌いではないのです。

 ですがそんな中で、常識も文脈も物理の法則も無視して、一心不乱に「もてなし」と「笑い」を追求するこの「接客無双」は、現代のマンガ界の主流から大きくはみだすことすら恐れていない、なんだか変な作品ではあるけれど癒されるマンガなのだと私は主張したい。

 第一、何なのですかその「鳩胸つるん」という脱力するペンネームは。

接客という戦いは和解で終わり孤独なクレーマーは癒される

 人は孤独が行きつくところまで達してしまい、自分の中で煮えたぎっているやり場の無い不満が爆発することで「モンスタークレーマー」と化してしまう、という話を聞いたことがあります。それは何となくわかる気がします。

 この「接客無双」では、そのようなモンスタークレーマーが、地上げをたくらむ巨大企業に雇われて主人公のナスノスケに襲いかかります。

 通常、度が過ぎるクレーマーなどは相手にせず、警備員や警察官を呼んで対処しても店側には何ら非はありません。しかしナスノスケは、そのクレームの裏に隠れている不満や哀しみを汲み取り、癒すまで決して接客をあきらめません。

 その方法を1話から最新話まで見返してみると「おひや」を使っている率がけっこう高いです。これをワンパターンと見るのは正しくありません。人間が生きていく上で欠かせないのは何よりもまず水分であり、飲み水を提供するというのは飲食店のみならず多くの接客の入り口であり基本中の基本なのです。達人こそ基本に忠実なのです。

 クレーマーに対する接客は戦いです。ですが格闘のように相手を打ち負かす戦いではなく、不満のたまった客を満足させて癒し、和解に至るための戦いです。

 この作品は、読者を飽きさせない為に回を追うごとに悲惨になっていくような展開とは全く異なる、真心と救済の物語です。その上でギャグはわかりやすくて笑えます。

 発売日の7/4、本屋に買いに行って、発行数の少なさに驚きました。ですが毎週、閲覧数に比べてコメント数がやけに多いので、目に留まった人たちの心を強くつかんでいるのは間違いないです。

 気になる方は、売り切れないうちに早めに買いに行った方が良いです。それはまあ、本で買わなくてもジャンプ+で全話読めるけども。

「接客無双」  鳩胸つるん(集英社)

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