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接客は高潔なる戦い -少年ジャンプ+「接客無双」鳩胸つるん-

 Web漫画「少年ジャンプ+」にて、あれほど溺愛していた「SPY×FAMILY」「ダンダダン」よりも、連載後好きになった「地獄楽」よりも、今は新連載の「接客無双」(作:鳩胸つるん)に夢中です。

接客の達人ナスノスケが、飢えて行き倒れていたところを助けてくれた中華料理屋の親子への恩返しとして、商店街からの立ち退きを迫る大企業と、その大企業に雇われた悪のクレーマー組織「九礼無」に立ち向かう話。

「接客無双」あらすじ

 読んだことが無い人向けに説明しておくと、この作品はギャグ漫画です。「週刊モーニング」が得意とするような職業のプロフェッショナルを描いた漫画ではありません。

 主人公のナスノスケはドラえもん並みに必要な道具を瞬時に取り出しますし、重力が無いかのような身体能力で、行動だけでなく肉体もモンスター化したクレーマーを迎え撃ちます。ギャグ漫画なのでその辺は何でもありです。

 その為、接客の内容も全く現実に応用できません。純然たるナンセンスギャグ漫画です。

 しかしそんなモンスタークレーマーを前にしても、主人公ナスノスケの「全ての客をもてなす」という信条は全くブレていません。

 あまりに理不尽なクレーマーであれば、店主の娘・れんげの言う通りまともに相手にせず警察を呼ぶのが妥当です。しかしナスノスケは、モンスタークレーマーの奇行の裏にある哀しみや苦しみを汲み取り、あくまでも「おもてなし」で癒そうとします。

 店内が寒いと訴える客には身体が温まるツボを指圧し、冷え切った頑なな心を温めるために自らの胸で抱きしめます。

 不幸な生い立ちから人の厚意全てを拒む客に対してさえ、拒絶の叫びで声を枯らした喉にお冷を流して潤します。

 極めつけは、料理に意図的に虫を混入させ「虫が入っている」と因縁をつける客に対しては、理不尽な行いに利用された虫を救い出して癒します。

 もしナスノスケが現実に存在すれば、SNSのアクセス数を稼ぐ目的で迷惑行為を撮影する客にさえ「そんなことをしてお怪我はありませんでしたか?」と気遣うでしょう。そうなった時には、心ある者であれば己の愚かさを恥じて改心すること間違い無しです。

 そんなナスノスケの高潔なる信念は、漫画史に残る交渉人、勇午に通ずるものがあります。

「交渉は戦いです。ですが最後は和解で終わります。」

「勇午 下北半島編」 作:真刈信二 画:赤名修 (講談社)より引用

 接客は戦いです。ですが最後は「ありがとうございました。またお越しくださいませ。」で終わります。

 そうありたいものです。