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新成人がカモにされないために クロサギ 再起動 -18歳新成人詐欺犯罪編

「クロサギ 再起動 -18歳新成人詐欺犯罪編-」黒丸、[原案]夏原 武(小学館)

「再起動」のテーマは新成人をカモにした投資詐欺

 2022年、テレビドラマ「クロサギ」の放送に合わせて短期連載された「クロサギ」の新エピソード。2022年の情勢に合わせて、新型コロナウィルスや18歳新成人などが物語に深く関わってきます。

 今回、「クロサギ」黒崎の標的となるのは新成人を狙った投資詐欺。大学のサークルを通じてセミナーに勧誘し、大人の仲間入りを果たした若者たちの虚栄心や将来の不安を刺激して投資の契約を結ばせる。後でおかしいと気づいても解約金は高額。しかも今は18歳からは「成人」なので、親権者による取り消しもできない。

「詐欺師にとって大学は絶好の漁場だ。高校に比べて教員とは距離があり、親の目も届きづらくなる。非公認サークルや自己啓発セミナーを入り口にし、学生をカルト宗教や悪徳商法などに引き込もうとする連中はごまんといる。」
(中略)
「たとえ内容に多少の偏りがあろうとも、判をつけば有効。裁判でも絶対にくつがえせない。彼らはその現実を教わっていない。」

「クロサギ再起動」単行本 よりセリフを引用

 この投資詐欺の加害者・被害者として関わる若者たちは、元はどこにでもいそうな普通の若者たちです。

 自分の力を過信し、成功者になろうとするうちに犯罪稼業の深みにはまる者、将来のことを真剣に考え、自力で資産形成しようと決心するもついていく相手を間違えて詐欺被害に遭う者、不安定な世の中を豊かに生きようとして、「うまく立ち回る」ために違法と知りながら犯罪の片棒をかつぐ者…。

 高校を卒業し新成人になると、突然世界が大きく開けたような気がして、親の保護から離れて自分の決めた人生を歩みたいという誘惑にはあらがえないものがあります。しかしそのワキの甘さは悪い大人にとって格好の標的(カモ)となります。

 そして被害者側になるにせよ加害者側になるにせよ、そのツケは残りの長い人生を左右しかねないほど大きい。これは非常に恐ろしいことです。

主人公の黒崎も「背伸びした若者」の一人

 連載当時からの読者としてもう一つ興味深かったのは、大学生と同年代の若者である主人公の黒崎が、自覚としては自力で詐欺師達と渡り合って勝っているつもりでも、実際は多くの大人達に支えられている、というのが以前よりも強調されていることでした。

 ライバルの詐欺師である白石、公証人の犬伏、情報屋の小柴、そして黒幕の桂木…。テーマが「新成人」であることから黒崎もまた一人の若者に過ぎない、というのを表したのもあると思いますが、長期連載を経て若者から大人になった作者、黒丸の視点の変化も反映されていると思います。

 そして決着がついた後の甘味処での1シーンに登場したのが、黒丸の現在の連載作、「東京サラダボウル」の鴻田と有木野!「クロサギ再起動」連載中は休載になっていましたが、作者の代表作にてまさかのゲスト出演を果たしました。

カモにならないために多くの若者たちに読んで欲しい

 背伸びしたい気持ちから道をふみ外して、犯罪の被害者にも加害者にもならないために、この「クロサギ 再起動」は多くの若者たちに読んで欲しいと思います。なんなら中学・高校の社会科の教材に加えて欲しいくらいです。

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