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砂の中のキリン

春の短編ファンタジーをどうぞ。

さっそく、ご感想をいただきました。


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砂の中のキリン


「奈々葉、どこ行くの?」
 リビングから母さんが顔をだす。
「さん、ぽ」
 スニーカーのひもをきゅっと結んで、あたしは外に飛びだした。

 ふわりと、やわらかな風が体をつつみこむ、春。
 そう、春なんだ。

 向かいの塀から枝を伸ばす桜が、花をほころばせている。


 この春、中学を卒業した。
学区で偏差値2番目の県立に合格。
女の子にしてみればまあまあ優秀で、母さんはお赤飯をたいた。

──たかしの時なんか、お母さんいっつもちっちゃくなってたわよ。
そのうっぷんが、たっぷりはらせたわ。

 うっぷんね。まあいいけど。
勉強するのはそんなに嫌いじゃない。
 でもへんに期待されてるから、この次はいい大学って言われそう。

 で、大人になったらいい会社に入っていい結婚をして、いい母親、いいおばあちゃん。
 で、しまいにはいい仏さん?

 あーあ。

 あたし、きっとこのままいい子ちゃんで生きてくんだ。
あたしの人生、たいしたもんじゃない。

       *


 もともと行くあてなんかなかったし、小さい頃歩きなれてた小学校の通学路をなんとなく選んでいくと、砂山のところに出た。

 砂山。
 まだあったんだ。

 小学校に通うとちゅうの川辺の空き地に、以前から大きな砂山があった。
 よくここで、道草くったっけ。

 畑の横の小道だから、車もあまりこない。
 あたりには、誰もいなかった──。


 こんなもんだったっけ?
 砂山は今でもあたしの背丈より大きかった。

 でもあの頃は、本物の山のようにどっしりとして、小さなあたしを圧倒するように目の前に立ちはだかっていた。
 
 砂山に足をかけてみる。
 ちっちゃかった頃みたいに。

 登ってみようかな。
 砂がくずれて、足がずるずるとおっこちそうになる。

 それをこらえて、ぐっと砂の中に足をふみいれる。

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*この作品は超短編です。

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4,117字

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