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オレンジポチのトラウマから

ぬいぐるみの話をもうひとつ。

子どもの頃、お気に入りのぬいぐるみはあっただろうか。

私が幼い頃オレンジ色の犬のぬいぐるみがお気に入りだった。蛍光色のオレンジに近い色で、犬なのになぜあんな色だったのか、今では不思議以外の何ものでもないけれど。

大事にしていた。

オレンジポチと呼んでいた。ポチではなくオレンジポチ。

ある日、母はそれを洗濯してくれた。

家の前の公園で遊んで帰ってきたら大好きなオレンジポチがいなくて
母に聞くと捨てたと言った。
洗濯したらほつれちゃたから、と。

母はまったく裁縫をしない人だったし、当時幼児だった私もできるはずがない。でもなおせるかもしれないのに、と思って私はゴミ袋の中を探した。

そこには想像以上に粉々のオレンジポチがいて、幼心に傷ついて私は泣いた。すごく泣いた。

40年以上も前の、ぬいぐるみが弱かったのか、洗濯機が強かったのか私には分からないけれど、私の中には衝撃映像として残されている。

女の子を育てていると嫌でもぬいぐるみが増える。私にはトラウマがあったので、小さい頃は一緒にお風呂に入れて洗って干したりしていた。洗濯機に入れるのが怖かった。

そして小さなぬいぐるみをネットに入れて恐る恐る洗い、私の中の「大丈夫」を繰り返し、積み重ねた。徐々に中くらいの大きさのものも洗濯機に入れられるようになったけれど、お気に入りのものは手洗いだった。

さっと洗い、とか、絡みまセンサー、という洗濯機の新しい機能がつくようになり、私の中の「大丈夫」指数が大きくなって、全てではないけれど、ほとんどのぬいぐるみは洗濯機で洗えるようになった。
ごめん、目が回るよー、なんて冗談いいながら。

今では、娘も成長してぬいぐるみの数は減ったし、一度に洗える量も増え、天気のいい日に一気に洗うことが出来る。
洗濯した日は我が家の窓辺にぬいぐるみが並んで、まるで賑やかな動物園のようだ。
そんなときふっとオレンジポチを思い出したりする。何十年経っても消えないんだなあと思う。
そして娘にはそんな思い出を作らずに済んで良かったと、ほつれることもなく並べられ日向ぼっこしているぬいぐるみを眺めて胸をなでおろす。


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