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作詞家大塚利恵の『ことばのドリル』vol.39♫発想の軸を変える

Vol.38のドリルはいかがでしたか?

「歌をうたおう。〜〜〜(How.どのように)。」
どんな風に歌うのか、なるべく沢山挙げてみて下さい。

「歌をうたおう。」だけだと、記号のようにざっくりとした絵しか伝わりません。
でも、Howが付くと、受け手の頭に浮かぶ絵に色が付き、リアルになったり、豊かになったりします。

How=どのように歌っているのか。
歌っている様子を描くことで、「歌う」という事実だけでなく、歌っている人の状況や感情、思いなども伝わってくるんです。

歌をうたおう。小さな子供のように。
歌をうたおう。世界を虹色に染めるように。

歌をうたおう。これが最後の呼吸であるかのように。

凝ったフレーズでなくても良いので、歌っている様子を想像して書いてみましょう。
そして、沢山書くためには、その様子が一つ一つ違うものになるように、頭のスイッチをカチカチ切り替えてみて下さい。


さらに、こんなこともイメージすると、バリエーション豊かになりますよ。

歌っている時の気持ち、感情
→歌をうたおう。ためいきをつくように。

どこで、いつ歌っているのか
→歌をうたおう。出航する船の汽笛のように。

どうして歌っているのか
→歌をうたおう。すべての記憶をリセットするように。

誰が、何人で歌っているのか
→歌をうたおう。みんなで肩を組んだあの夜のように。

どんな歌を歌っているのか(具体的なアーティストや曲名を思い浮かべるのもGood)
→歌をうたおう。夏フェスの夕暮れクライマックスのように。

どんな声で歌っているのか
→歌をうたおう。トランペットのように。


こんな風に、一つのお題で沢山書いて発想を切り替える練習は、やわらかアタマを作ってくれます。
一つの発想に縛られて行き詰まった時、絶対に他のアイディアなんか無いと思い込んだことはありませんか?
その思い込みが強いエネルギーとなり、素晴らしい作品ができることもあります。
でも、途中で行き詰まってしまっているなら、他のアイディアも探す方が良いですね。アイディアをどれだけ柔軟に、多様に出せるかが突破口になります。

ところが、「よし、それじゃあいろいろアイディアを出してみよう!」
と思っても、なかなかうまくいかなかったりします。

原因は何でしょう?

発想力がないから?

じゃあ、発想力ってどうやったらアップするの?

ただ「新しい発想をするぞ!」と取り組むのは、「気合一発!」みたいな当てずっぽうな感じがしませんか。
もう少し着実にできることがあるはず。


例えば、発想の軸になっているものは何か?を考えること。

どういうことかというと、

歌をうたおう。ためいきをつくように。
歌をうたおう。悲しみを全部吐き出すように。
歌をうたおう。君への愛が溢れるままに。


こんな風にいくつか書いていて、もうこれ以上はアイディアが出ず、行き詰まったとします。
書いたものを分析してみると、先ほど挙げた中の、『歌っている時の気持ち、感情』にフォーカスして発想していたということに気づきます。
この、知らず知らずにフォーカスしていることがここで言う「軸」です。

一つの軸に寄っていることに気づいたら、意識的に違う軸に変えてみましょう。
では、『どこで、いつ歌っているのか』に軸変更してみましょうか。

大きな船がある港。真夏の太陽が燦々と輝く。
→歌をうたおう。出航する船の汽笛のように。

学校の屋上。放課後、まだ空は青く明るい。
→歌をうたおう。屋上の風に思い切り乗せて。

静かな自分の部屋の窓辺。なかなか眠れない深夜2時。
→歌をうたおう。夜空を寝かしつけるように。

こんな風に発想の軸が変わると、また違った感じのフレーズが出てきます。


無意識な発想の癖、固執してしまっていること、自分が居ついてしまっている発想の軸。
地道に、このような自分の“発想の素”を観察し、紐解いていけば、行き詰まっても原因がはっきりします。そして、大胆に舵を切り、新しいアイディアを生み出すことができるのです。

やわらかアタマを作るためには、まずアタマの固い部分に気づくことから。
やはりこれも焦らないことが大事。
行き詰った時は、このドリルの手順を読み直して、ぜひ試してみて下さいね。


ところで、「歌をうたおう。」というのは、Let's singと誰かを誘っている解釈と、I will singのように「歌うぞ」と自分で決心した解釈の二種類がありますね。
今回挙げた例の中にも、両方が混在しています。
もし、どちらかに偏ってしまっていたら、そこをスイッチするのも発想が変わると思いますよ。


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《ことばのドリルVol.39》
‘あ’‘い’‘う’‘え’‘お’を頭文字に、5行の作品を作って下さい。
テーマは「明るく、楽しく、ワクワクする感じ。」
(例)
‘あ’っという間に隠れた君の
‘い’たずらな笑い声が
‘う’れしそうに天まで響く
‘え’らんでくれてありがとう
‘お’わりを知らないパレードみたい

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2016年にメルマガで連載したものに加筆しています。全100回。
作詞の勉強をしたい方はもちろん、自分の言葉を磨きたいすべての方に。
長年作詞を指導してきたノウハウを目一杯詰め込みました。
最初は易しめですが、じわじわ効いてきます。
解説を読むだけでもヒントを得てもらえるように書いていますが、実際トライしてもらうと、さらに言葉の感覚が大きく変わっていくのを実感してもらえるはず。
大塚利恵の作詞レッスンでは、ドリルへのアドバイスも行っていますので、ご興味のある方はぜひお越しください。


ありがとうございます!