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作詞家大塚利恵の『ことばのドリル』vol.33♫歌詞はことばだけど、ことばだけでは完成しない

Vol.32のドリルはいかがでしたか?

好きな歌や、テレビ・ラジオなどから流れてくる歌を聴いて、心に響いた歌詞のキーワードやフレーズを書き留めてみて下さい。あまり前のめりにならず、気楽に。
なんとなく意識して過ごして、気付いたらメモするようにしてみましょう。

今までのドリルを実践して下さっている方には、ちょっと休憩のようなドリルだったかもしれませんね。

例えば、誰かのプレイリストを覗いてみると、その人の好きな音楽を幅広く知ることができますよね。
ロックonlyの人もいれば、同じアーティストの曲ばかり入っている人もいます。
一方、クラシック、ジャズ、ブルース、演歌までジャンルは関係なく、何か琴線に触れるポイントを大事にしている人もいます。
そのように、プレイリストを覗くことは、その人の世界観や感性を知るということでもあります。

同様に、あなたの好きなことばの欠片を集めてみると、それはあなたの世界がより凝縮されたコレクションになっているはず。
もちろん、あなたの持ち物ではない他人のことばですが、あなたが何が好きで、何に反応し、何を大事にしているのかがぎゅっと詰まっています。
つまり、あなたの個性を映し出す鏡になってくれます。

集めてみたら、意外と「愛してる」とか「大丈夫だよ」なんてストレートなことばが多かったという人もいたかもしれません。
いかにも素晴らしい表現が並ばなかったとしても、全然気にしないで下さい。
あなたの心に確かに響いたということ、それを書き留めたことが大事。
あなただけがわかっていればokなんです。

自分で表現するに当たり、本当に好きなもの、心に響くものを改めて認識し直すことは、とても有意義です。

これが私。
私はここに居る。
これが私の世界。

ホッとするような、興奮するような、目がキラキラと輝くような、あなただけの世界。
それが土台となり、その先にオリジナリティ溢れる創作が待っています。


さて、今回は、耳で聞いて心に響いたことばをコレクトしてもらうところがポイントでした。
歌詞をじっと眺めながら、「このフレーズすごい!」と思うのとは、また少し違った感覚があったんじゃないでしょうか。

歌詞を「読む」時は、マイペースに時間をかけて鑑賞することができますね。
表現の意味をじっくりと落とし込み、理解を深めることもできます。

でも、「聞く」時は違います。
ことばは空間に、そして時間の流れの中にあり、メロディやコード(和音)とも相まって、紙上から解き放たれています。
速さ、声のトーン・質、ニュアンス、間などにより、紙の上にはない様々な情報がプラスされて伝わってきます。

「詩(poem)」が、ことばのピースだけで完成しているパズルだと想像してみて下さい。
では、「歌詞(lyric)」の場合はどうでしょう?

「歌」は、ことばだけでなく、メロディ、コード、リズム、声など、いろんなピースが集まって完成します。
つまり「歌詞(lyric)」は、「歌」というパズルの一部のピースということになります。
ことばでありながら、ことばだけでは完成しないもの。
それが歌詞です。

本来は、歌は「聞く(聴く)」もの。
それを、特に作り手は忘れてはいけないと思います。
頭でっかちになって、音楽の魔法をなくさないために。

音楽の魔法とは?!
「これ、すごくいい歌詞なんだよ!」と、歌詞を友達に見せようとした瞬間、「あれっ、読んでみると意外と普通だな。」と感じたこと、ありませんか?
読むとごく普通のことばなのに、メロディに乗って聞くと特別なものになる。
それが音楽のことばならではの魔法です。


ことばの表面的な意味だけでなく、その向こう側にあるものを感じ取るつもりでおおらかに聴いてみると、その時の心にひときわ響く瞬間があります。
それは、歌詞がきっかけだとしても、ことばそのものではない場合もあるでしょう。

そんな風に、「感じる」「味わう」時間を十分持つことが、創作の豊かな土壌となり、あなたのことばを輝かせていってくれるに違いありません。


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《ことばのドリルVol.33》

続くことばを創作して、歌詞やポエムのフレーズを完成させて下さい。
「五月だから~~~」
「五月なのに~~~」

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2016年にメルマガで連載したものにちょこっと加筆しています。全100回。 作詞の勉強をしたい方はもちろん、自分の言葉を磨きたいすべての方に。 長年作詞を指導してきたノウハウを目一杯詰め込みました。 最初は易しめですが、じわじわ効いてきます。 エッセイを読むだけでもヒントを得てもらえるように書いていますが、実際トライしてもらうと、さらに言葉の感覚が大きく変わっていくのを実感してもらえるはず。 大塚利恵の作詞レッスンでは、ドリルへのアドバイスも行っていますので、ぜひ。


ありがとうございます!