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作詞家大塚利恵の『ことばのドリル』vol.38♫あらすじっぽくならないために

Vol.37のドリルはいかがでしたか?

「旅に出よう。〜〜〜(理由)から。」
旅に出る理由を、なるべく沢山挙げてみて下さい。

頭の中にあるストーリーは素晴らしく膨らんでいるのに、いざ書いてみるとあらすじっぽくなってしまうことはありませんか?

あらすじは漢字で書くと‘粗筋’。その字の通り、だいたいそっけないものです。
あらすじが骨だとすると、詳細な状況、情景、世界観などは、ストーリーの血肉と言えます。


例えば、「あなたに会いたくて仕方ない」という恋愛ソングやドラマ、映画。
似たようなあらすじのものは山ほどあるのに、一つ一つが違う感動を生むのはなぜでしょう?
それは、人物も、その状況も、血肉の部分が違うからです。
逆に言えば、ありきたりでつまらないストーリーがあったとしても、「あなたに会いたくて仕方ない」というあらすじがありふれていてつまらないのではなく、その描き方に問題があるのだと思われます。


さて、あらすじから脱却し、血の通った唯一無二の表現にするためにはどうしたらいいでしょうか?
一つの方法として、5W1H、特にWhy(なぜ)とHow(どのように)を意識して描いてみるのがお勧めです。

旅に出るストーリーなら、なぜ旅に出るのか? どのように旅をするのか?という部分ですね。
今回のドリルは旅に出る理由を書くので、Why(なぜ)を描くことになります。

例を挙げてみましょう。

「旅に出よう。風の歌を忘れてしまったから。」
「旅に出よう。タマシイがペコペコだから。」
「旅に出よう。大事なものだけ抱きしめたいから。」
「旅に出よう。汽笛の音が細胞を震わせるから。」
「旅に出よう。ここではないどこかへ行きたいから。」
「旅に出よう。記憶を全部塗り替えたいから。」
「旅に出よう。その意味は、きっと歩き出さないとわからないから。」
「旅に出よう。私は私を超えて行きたいから。」
「旅に出よう。はじめましての景色、はじめましての匂い、数え切れない“はじめまして”が、私を蘇らせてくれるから。」

「旅に出よう。喜びも悲しみも、純粋な輝きを放つから。」
「旅に出よう。ただ今日の空が美しいから。」
「旅に出よう。目の前に道があるから。」
「旅に出よう。だって私は自由だから。」


こうして並べてみると、人物の状況や感情、キャラクターなどが、理由の方に滲み出ていることが分かりますよね。
同じ「旅に出る」あらすじでも、一つ一つが違うストーリーです。
つまり、唯一無二のストーリーを描くにも、受け手に感情移入してもらうにも、あらすじだけでは難しいということです。

もっともっと長い理由を書いてみるのもいいですね。
旅に出る理由だけで、1曲の歌詞に膨らませることだってできるはず。


歌詞は特に文字数が少ないせいか、
「あらすじっぽくなっちゃうんだけど、どうしたらいいですか?」
という悩みをよく聞きます。
では、なぜあらすじっぽいことを書いてしまうのでしょう?

大事なのは、『あらすじ=絶対に書かなければならない最重要部分』 ではないということです。
ところが、悩んでいる人は、「まず筋を書かねば!」と思い込んでいるパターンが多いようです。

もちろん、話の筋が全く伝わってこなければ、何のことを言ってるのか意味不明になってしまいますよね。

〜何を書くべきか、何を書かないべきか。〜

書かなければ伝わらないことと、わざわざ書かなくても他の情報から伝わっていたり、想像できてしまうことを見極め、後者をカットします。
あらすじ的フレーズをカットした分、ストーリーの血肉を多く描けることになります。
歌詞のような文字数の少ない表現では、この見極めがひときわ大事になるわけですね。この判断力によって作品の質が大きく変わってきますから、試行錯誤をしながら磨いてゆくべき力です。

「全部書かないと、ちゃんと伝わっているかどうか不安。」というのも分かります。
ただ、何もかもぎっちり説明し尽くされていると、受け手は想像力を使う隙間を与えられず、息苦しくなってしまうものです。
万人に完璧に伝わるようにしようとすると無理が出るので、8割9割の人に伝わるかどうかを基準にしてみましょう。
あとは、そのあらすじ的フレーズを書くことで、作品から“つまらない臭”が漂ってきた場合は、カットした方が良いでしょう。
書き手がワクワクしない作品は、受け手もワクワクしませんから!


常に、受け手の感覚になること。
作り手は散々その作品と向き合い、その世界にどっぷり浸かっていますから、初めてその歌を聞く人、初めて作品の世界に触れる人の感覚になることは容易ではありませんね。それでも、とことん想像することです。

受け手の感覚になることは、受け手に気を使うのとは違います。
気を使うのって、疲れますよね。
作者が気疲れしてはいけません笑!
気を使ってしまうと、「これじゃ伝わらないかな。ダメかな。」と、ネガティブになっていくし、この表現でいくぞ!という基準がモヤモヤし、自信喪失してしまいます。

お客様(受け手)は神様ではありません。同じ人間です。
媚びた作品を作らない前提での話ですが…
あくまでも作者であるあなたがこれだ!と思った表現を大事にすべきと思います。
100%は無理でも、同じ人間だから、きっと伝わる人には伝わるはず。
そんな風に受け手を信頼した上で、初めて作品に触れる人の感覚を想像することなのではないでしょうか。


あらすじっぽくなっちゃった…という時は、Why(なぜ)やHow(どのように)を描くこと、思い出してみて下さいね。
新しく表現を産み出さなきゃ、大変だ、と思わなくて大丈夫です。
頭の中の世界には、すでにそれらが存在しているはずだから。
まだことばにしていないだけなんです。
焦らずに、じっくりその世界に浸って、ことばにしていって下さい。
何気ない景色の一部とか、何でもないような呟き、当たり前すぎて見落としていた地味なことが、作品の中で必要とされている場合もあります。
えっ、こんなとこ描くの?なんていう意外なところが、斬新な効果を生んだりして。
頭の中の世界をよく観察しましょう。
どこを切り取るかは、あなたのセンス次第です。


さて、あなたが「旅に出よう。」と踏み出すのは、どんな理由でしたか?


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《ことばのドリルVol.38》

「歌をうたおう。〜〜〜(How.どのように)。」
どんな風に歌うのか、なるべく沢山挙げてみて下さい。

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2016年にメルマガで連載したものに加筆しています。全100回。
作詞の勉強をしたい方はもちろん、自分の言葉を磨きたいすべての方に。
長年作詞を指導してきたノウハウを目一杯詰め込みました。
最初は易しめですが、じわじわ効いてきます。
解説を読むだけでもヒントを得てもらえるように書いていますが、実際トライしてもらうと、さらに言葉の感覚が大きく変わっていくのを実感してもらえるはず。
大塚利恵の作詞レッスンでは、ドリルへのアドバイスも行っていますので、ご興味のある方はぜひお越しください。

ありがとうございます!