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作詞家大塚利恵の『ことばのドリル』vol.40♫ワクワクチャンネル

Vol.39のドリルはいかがでしたか?

‘あ’‘い’‘う’‘え’‘お’を頭文字に、5行の作品を作って下さい。
テーマは「明るく、楽しく、ワクワクする感じ。」
(例)
‘あ’っという間に隠れた君の
‘い’たずらな笑い声が
‘う’れしそうに天まで響く
‘え’らんでくれてありがとう
‘お’わりを知らないパレードみたい

こういうゲームじゃなくても、テーマがあって何かを創作することはよくありますよね。
そういう場合のコツをお伝えします。

まず、明るく、楽しく、ワクワクした気分になりましょう!
上手にできなくても大丈夫。
“なったつもり”で構いません。

私はよく、“作詞家は精神的俳優”と言うのですが、まるで俳優が演じるように、役そのものになって書くようなイメージです。
(このドリルは作詞じゃなくてももちろんokですが。)

つまり、ワクワクしている誰かを外から観察するのではなく、自分自身がそうなること。
あるいは、ワクワクしていた時の自分を思い出すというより、その時の状態になろうとすること。
外から観察して書くと、「明るいってこういうことだろう。」「楽しいってあんな感じかな。」と、他人事になったり、理屈っぽくなりがち。
でも、自分がその気持ちになれば、感覚をフルに使い、リアルに書くことができます。生き生きした血の通ったことば、斬新な切り口の表現も出てきやすくなります。

具体的にワクワクするシーンを想像するのでも良いけれど、もっと簡単な方法があります。
それは、心拍数や顔の表情を、明るく、楽しく、ワクワクな時に近づけること。
頭だけでなく、体や心、自分を丸ごと『ワクワクチャンネル』に合わせるんです。
理屈よりずっとスピーディーですよ。


ところで、明るく楽しく…って苦手なんだよね、という人もいると思います。
そういう人は、もしかすると一般的な感覚に合わせなきゃならないと思っていませんか?
型にはまる必要はありません。
自分自身がしっくりくる明るさ、楽しさを表現しましょう。

他の人に、「それって明るくないよ?」と否定されてしまうこともあるかも知れません。
ところが、「えっ、じゃあ、みんなに明るいって思ってもらえるように合わせなきゃ。」と思ったとしても、どのみち自分の中にない感覚は描けません。
描いてもどこか嘘っぽかったり、ありきたりになってしまうものです。
たとえ他人に理解されなくても、あなたの中でそれが本当に真実なのであれば、堂々と表現してみた方が良いと思います。
それがゆくゆく唯一無二の個性になるからです。
最初はうまく表現できなくても、磨いてゆけばきっと「斬新で明るい表現だね!」と言われるようになるでしょう。
表現を磨いている途中で、他人の意見を聞きすぎて諦めないことが大事です。


また、他人と違うものを書きたい気持ちが強く、普通と違う「明るさ」を敢えて描いている人もいると思います。
そうやって個性を磨いていくのも、一つの方法でしょう。
ただ、その場合は、自分自身がそういう自分に気づいているかどうか。
考えた上で、そんな自分の在り方、やり方を受け入れているかどうか。
それをクリアしていれば大丈夫だと思います。
そうでないとただのあまのじゃくになってしまうので、心当たりがある人は一度じっくり自分に問いかけてみるのをオススメします。


では、最初に挙げた例以外にもいくつか書いてみますね。

明日なんかまるで無いみたいに
今がスパークしまくって
うるせーうるせーうるせーって
笑顔の花火がバンバン上がる
おかしなおかしな人生だなあ

アガサ・クリスティを顔に広げて
愛しい君はお昼寝中
「美しきビキニ死体発見!」

えいっと本を引っ剥がすと
おどけた変顔、真夏の太陽

あーっと叫んで仰いだ空に
痛みは魔法のように消えた
歌を歌おう、とにかく歌おう
駅前広場からアンドロメダまで

幼い夢のリズムのままに

書き終わったら、「明るく、楽しく、ワクワクする感じ。」になっているかな?と確かめてみて下さいね。
他の人に「どう?」と聞いてもいいですが、まずは自分が納得いくように仕上げましょう。自分自身の感覚を大切にし、育てるために。


ところで、もしこのドリルに頭文字の指定がなく、「5行で明るい感じの作品を作って下さい」だったら、どうでしょう?
大抵の人は、もっとやりにくさを感じるのではないでしょうか。
さらに、「5行で何か作って」だと、もっと困っちゃいますよね。
「何か作って」だったら、どうしたらいいのか分からなくなってしまいます。

いろんな指定や条件があると、創作しにくいんじゃないかと思われがちなのですが、実は逆です。
何もないところから何かを生み出すというのは、なかなか大変なこと。
作りたいものが自分の中で溢れている時なら良いですが、いつもその状態とは限りません。
でも、頭文字を決めるなど、ちょっとした縛りを作ると、それがきっかけになって無理矢理にでも扉が開かれ、前に進むことができます。

たとえ書いてみて納得がいかなくても、少なくとも「これはなんか違う」ということがわかりますよね。何も書かずに頭の中でこねくり回しているよりは、ずっと前進していると言えます。
また、語彙を増やすためにも、頭文字を決めて書くのは良い訓練になりますよ。
自分の考えやすいようにだけ考えて書く時には絶対出てこないようなことばも使うことになり、どうテーマに結びつけるか試行錯誤するうち、表現の幅も広がります。

あとは、5行のまとまりが大事。
単純に言うと、オチがついているとまとまった感じがします。
と言っても、お笑いのネタのようなはっきりしたオチじゃなくてもいいし、5行全体で何かが伝わってくる、一枚の絵になっている感じを目指すと良いでしょう。
最終的には、頭文字の指定があったとは気付かれないくらい角が取れ、自然にまとまっていると良いですね。


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《ことばのドリルVol.40》
‘さ’‘し’‘す’‘せ’‘そ’を頭文字に、5行の作品を作って下さい。

テーマは「寂しさ」

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2016年にメルマガで連載したものに加筆しています。全100回。
作詞の勉強をしたい方はもちろん、自分の言葉を磨きたいすべての方に。
長年作詞を指導してきたノウハウを目一杯詰め込みました。
最初は易しめですが、じわじわ効いてきます。
解説を読むだけでもヒントを得てもらえるように書いていますが、実際トライしてもらうと、さらに言葉の感覚が大きく変わっていくのを実感してもらえるはず。
もっと深く学びたい方は、大塚利恵の作詞レッスンへぜひお越しください。
初心者〜プロの方まで、無料カウンセリングも行っています。


ありがとうございます!