見出し画像

メルボルン~私の初めての海外留学~その4

寡黙だけど、暖かい、そんなお父さんと砂金採集

明日は新しいホストファミリーと迎える初めての週末、そんな金曜日の夜、アマンダは突然私に言った。

週末は(明日)お父さんのおうちに泊まるので用意してね。


戸惑いながらも、急いで明日の準備をしていると、いつものようにお母さんが水と洗濯ものを手に私の部屋にやってきた。そして慌ただしく準備する私に言った。

明日、アマンダたちと行かないでこの家に私と残らない?

またもや私は戸惑ったが、やはりアマンダやジェーンと過ごそう、と思い、彼女たちと一緒に行くと伝えた。
お母さんは、いつものように笑顔だったが、私の返事を聞いて少し寂しそうだった。

翌日、車で迎えに来てくれたお父さんと一緒に、私たちはどこかへ出かけた。お父さんはこれからの予定を一切説明しない人なのであった。
着いたのは、1850年代のゴールドラッシュの街を再現したテーマパーク。
大草原の小さな家を思い出させるような街並みに、当時のクラシカルな衣装を纏ったスタッフ、敷地内には馬車も走っている。
週末にも関わらず人影もまばらな中、私たちはのんびり砂金採集をした。砂金は取れなかったけれど、開拓時代のオーストラリアの雰囲気をたっぷり味わえる面白いテーマパークだった。

その後、なぜかお父さんのオフィスに連れていかれ(とてもきれいで個室だったのが印象的)、レンタルビデオ店に行き日本語のビデオがないか店員さんに聞いてくれ(もちろんおいてなかった)、お父さんの暮らす家に着いた。長い一日だった。
口数は少ないが、はるばる日本から来た私が楽しめるように、あれこれ工夫してくれる優しいお父さんであった。

翌日はお父さんのお母さんのお宅に行き、アマンダの親戚たちとランチを楽しんだ。話も尽きて、居心地の悪さを感じ始めたころに帰宅。

一泊二日のお父さんとの小旅行はこれからどこへ行くのか誰と会うのか、予想もできないハラハラする面白さがあった。
短い間であったが、お父さんの不器用な優しさや暖かさにふれ、別れがとても寂しかった。やっぱり家に残らず、アマンダたちと一緒に来てよかった、そう思った。

夕焼けのきれいな桜並木

いよいよ、明日帰国するという前日の夕方、家のすぐそばにある桜並木の下でホストファミリー全員と写真を撮った。

二人で写真を撮った時、お母さんは「あなたは私の3人目の娘」と言ってくれた。一緒に撮った写真を見るたび、今でもその言葉を思い出す。
夕焼けがとてもきれいで、桜は満開だった。オーストラリアにも桜があることを私は初めて知った。

最後の夕食はお母さんがご飯を炊いてくれた。
アマンダが「わたしのいもうと」と日本語で私に言ってくれ、お母さんは「わたしのむすめ」と言ってくれ、そして、ジェーンは何も言わずに寂しそうにしていた。

お別れの曲をプレゼントすると言って、アマンダが Wilson Phillips のHold onを流してくれた。私もたまたま日本から持ってきていた松田聖子のカバーするHold onを流し、お互い偶然同じ曲のCDを持っていたことに驚き、喜んだ。
夕飯を食べ終わっても楽しい会話が続き、明日帰国することがどうしても信じられなかった。
いつまでもこの時間が続いてくれればいいと思った。

帰国の朝、バス停にて

帰国の朝、私たちを乗せるバスはアマンダたちの通う学校の近くに停められていた。
それぞれのホストファミリーが私たちの乗り込むバスまで見送りに来て、みな口々にお別れを言い合っていた。

アマンダはすぐメルボルンに帰ってきてね、それまで何度も手紙を書くから、必ず帰ってきてねと私にいい、ジェーンは黙ったままだった。

いよいよ私はバスに乗り込み、そしてバスが出発したその時、窓越しにジェーンが大粒の涙を流し、走ってバスを追いかけてくるのが見えた。
私もこらえきれず涙を流し、ジェーンが見えなくなるまで手を振った。

最後に

約一か月の間に、私は2つの家庭に滞在し、それぞれの家族やその家族の親戚や友達と知り合った。
海外に行くことも、外国の人と話すことも、親戚以外の人の家に泊まることも、何もかもが初めての今回の旅。

まだ高校生で何もできない、言葉さえ満足に話せない私に、たくさんの親切と、愛情を惜しげもなく与えてくれたメルボルンの人々。

やさしさの形はそれぞれでも、言葉も国籍も軽々と飛び越えてダイレクトに心に伝わるということを知った。

今後私は彼らがかけてくれた愛情を同じように誰かに手渡していくことができるだろうか、、、
帰国してから、ふとそんなことを思った。

絶対にすぐにまた帰ってくる、そう言って後にしたメルボルンを30年経った今もまだ訪れることができていない。
いつか再びメルボルンを訪れることができるだろうか、彼らに会うことができるだろうか。

いつかできる、と私は信じている。

この記事が参加している募集

一度は行きたいあの場所

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?