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南仏ホームステイとポルトガル一人旅~パリ編②~

パリから帰国して3年、フランス語をほとんど忘れかけていることに危機感を覚えた私は、ニースでホームステイすることを決意。さらに航空券のストップオーバーを利用して「深夜特急」を読んで以来憧れていたポルトガルへ一人旅することに。
パリでは初めてユースホステルに泊まり、そこで知り合った日本人男性と意気投合。さてこれからどのようなことが待ち受けているのでしょうか。

現れたのはスペイン人女性!

やがて本の話題で盛り上がっていた私たちのもとに、一人の女性が現れた。するとヒロシが「hola」と彼女に近づき、二人はビズを交わした。
そんな二人を見て、私はやっと彼女がヒロシの友達だということに気づいた。
スペイン人の友達、とヒロシが言ったので男性が来るとばかり思っていたのだ。友達=同姓という図式が勝手に私の中に出来上がっていた。思い込みとは恐ろしいものだ。
ヒロシの言う「友達」がこんなかわいらしい女性だと最初から知っていたら、無駄な心配をする必要なかったのに、、、と思いつつ、もうすっかりヒロシに対して警戒心がなくなっている自分に気づいた。

会話は4か国語を総動員して

しばらくスペイン語で会話していた二人だが、私を気遣ってフランス語で会話しようと提案してくれた。だがフランス語初心者だというヒロシがフランス語での会話に悲鳴をあげ、私たちは英語で会話することになった。
時間が経つにつれ英語での会話がまどろっこしくなった二人がスペイン語を使い始めた。ヒロシが二人の会話を私に伝えてくれる。
紆余曲折ありながらも、なんとか三人の会話は成立し楽しい夜を過ごした。伝えたいことが伝わるのなら、どのような言語を使うかは重要ではない。言語はただの道具であり、お互いの意思疎通が図れれば万事OKなのだ。気が合う者同士なら、言葉の壁は障害にならないと実感した夜だった。

アニタは真面目な女子大生

私のなかでスペイン人女性は喜怒哀楽が激しくて情熱的で大胆というイメージがあった。オペラ「カルメン」の主人公カルメンのような。
しかしアニタはそんな私のイメージを打ち砕いてくれた。
彼女は超がつくほど真面目で物静かで冷静な大学生だった。ヒロシと同じ大学で美術を専攻しているという。身振り手振りも声の大きさも控えめで、相手の話をじっくり聞くタイプ。
国籍に対するステレオタイプなイメージは案外当てにならないものである。あらゆる先入観を追い払ってただひたすら目の前にいる相手そのものと会話する。そんな時間は素晴らしくお互いの距離を縮めてくれる。私は話すうちにどんどんアニタに好意をもっていった。

二人が通う大学の話や専攻する美術について、彼らが今まで旅したスペインやフランスやモロッコの話は全て面白く、ずっと聞いていたかった。あっという間に3時間が過ぎ私たちは渋々重い腰を立ち上げた。

夜のパリは美しい

夜遅くの外出はいつも帰りが心配で時間が気になるのだが、この日は同じ宿に宿泊するヒロシがいるので安心だった。

オレンジ色の街灯のせいか、石畳のせいか、夜のパリは昼のパリ以上に素敵だ。昼の何倍も美しく歩いているだけでドラマが始まりそうな気持になる。
バスティーユから帰る道すがら、私は夜のパリをなんども心に焼き付けた。ヒロシとアニタに、夜のパリって美しいよね!となんども言った。彼らは失笑しながらも「そうだね」と同意してくれた。

日が長い夏のパリでは夜8時をすぎないと暗くならない。今回の一人旅では夜の観光は控える予定だったので、思いがけず夜のパリを歩けたことが嬉しかった。
これもヒロシと出会って、思い切って彼らが飲みにが行くのについていったおかげだ。一人旅は何が起こるかわからない。これが一人旅のいいところ、私は今日の出逢いを感謝しつつ、もうユースホステルについてしまったことに軽い失望を感じながら部屋に入った。

ピカソ美術館は一人で

部屋に帰るなり、私はすぐに寝てしまったようだ。旅の間毎日書こうと決めていた日記すら開いたままだ。今日は大好きなピカソ美術館やシテ島、サンルイ島、そしてノートルダム寺院を回る予定だ。大忙しである。
今回の旅のメインはあくまで南仏とポルトガルだ。パリはおまけの観光、たったの3泊しかないのだ。

私はいそいそと身支度を済ませ部屋から出た。ちょうどその時ヒロシも部屋から出てきた。お隣さんとは言え、なんという偶然だろう。
どこに行くか問われ、ピカソ美術館と答えると「俺もいこうかな」とヒロシ。
私は思い入れのあるピカソ美術館だけは一人で行きたい!と思い、しどろもどろになりながら断った。
買い物や観光で予定が詰まってる、と。

昨日彼が美術についての談議をアニタとしていたのを思い出したのだ。
絵の解説を隣で聞きながら鑑賞するのはいやだった。私はピカソの絵と一対一で対峙したかった。
絵画鑑賞は私にとって知識を得るものでなく、どれだけ自分の心が動かされるかを静かに感じるものだ。
残念そうにするヒロシに罪悪感を感じながらも、夕食を一緒に食べる約束をして私たちは別れた。


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