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【本】童話のチカラ

あまんきみこ『車のいろは空のいろ 白いぼうし』

 読書会で、娘さんの教科書に載っていたことをきっかけに読んだという方から、紹介がありました。
 読んでいる間、この本は私をお話の世界に連れて行ってくれました。童話の力を思い知り、自分がその力に触れたのがずいぶんと久しぶりであることに気がつきました。紹介してくださった方、ありがとうございます!

 『車のいろは空のいろ』シリーズは、タクシー運転手の松井さんが、不思議なお客さんと出会うファンタジーです。娘さんの教科書に載っていたのは『白いぼうし』。読書会では、チョウがお客さんで、その声を松井さんが聞くという不思議さ、ストーリーの中で自然に視点の切り替えがおきる面白さが、子どもが出会うファンタジーとしてとても魅力的との紹介でした。
 ぼうしとチョウの羽の白、タクシーと空の青、菜の花畑と夏みかんの黄色の色彩が瑞々しく、お話から夏みかんのいい匂いがしたよ~!
 
 人間以外のものがフワッと出てきて、松井さんと交流し、フワッと去っていく。初版は1968年。キツネやクマが出てくるが、この頃と現在で動物たちとの距離は変わっているのだろうか。物理的には現在も身近にいる動物だが、精神的にはどうなんだろう。人間社会のなかに人間ではないものがいて、一緒に暮らしていると思うのは楽しい。
(ジブリの『平成狸合戦ぽんぽこ』は1994年ですね)

「ほんものの顔のまま、人間とはなしをするのは、はじめてでしてね。なんだか気持ちがいい。ほんとうのすがたのままでいられるということは、それだけで、とてもうれしいことなのですよ。おわかりですか。」
 ドアがあいて、おくさんがお茶をもってきました。着物もおびも、さっきのままでしたが、その顔は、いつのまにか黒いくまになっていました。

くましんし

 ほんとうのすがたのままでいられること、とても嬉しいことだと思う。

 劇的なことが起こるわけではないけれど、松井さんとともに不思議に出会い、ファンタジーの世界にウキウキしていると、「すずかけ通り三丁目」というせんそうを描いた章に会う。松井さんのタクシーは、空襲で双子の息子を亡くした女性を乗せてすずかけ通りを行く。

「もし、お子さんが生きていられたら、もう、二十五さいですね。
 わたしのおとうとと、ちょうどおない年ですから――」
「いいえ、うんてんしゅさん、むすこたちは何年たっても三さいなのです。
 母おやのわたしだけが、年をとっていきます。
 でも、むすこをおもうときだけは、ちゃんと、このわたしも、もとのわかさにもどる気がするんですよ。………おもしろいものですね。」

すずかけ通り三丁目

 「むすこたちは何年たっても三さい」という母親のせんそうはなくなったりしない。
 女性は、多すぎるタクシー代金を松井さんに手渡して、駅の中へ吸い込まれていく。

 なにか、ひとこと、いいたいのです。

 私も真夏の暑さの中、汗を流して、駅の長い長い階段を松井さんと一緒に駆け上がっている気持ちになった。