見出し画像

#ゲームとことば 「あの日、霧の森で」

こんにちは、ゲーム翻訳者のいはらです。今年もこの季節がやってきました!というわけで、「ゲームとことば Advent Calendar 2022」の1日目を担当させていただきます。

↑↑ちょっと!?25日のマス切れていないですか!?
今回のホストのReimondさんなのに!

今年のテーマは「ゲームと人生」ということで、私の自慢の友人たちについて書いてみたいなと思います。優しくて、愛嬌があって、ゲームが大好きな、最強の彼らと出会った時のお話です。

· · • • • ✤ • • • · ·· · • • • ✤ • • • · ·· · • • • ✤ • • • · ·· · • • • ✤ • • • · ·

時計の針はてっぺんをゆうに超え、あと数時間ほどすれば小鳥のさえずりが聞こえてくるであろう深夜と早朝の狭間、私は霧の森で、血の付いた可愛い可愛いウサギの着ぐるみを、気分が上がるからという理由で着用し、4人のサバイバーがそろうのを待っていた。

可愛い可愛いウサギの着ぐるみ

『Dead by Daylight』は、1人のキラーと4人のサバイバーに分かれて戦う非対称のオンライン対戦ゲームだ。キラーはサバイバーを1人ずつ攻撃して、相手チームの頭数を減らすことができる。一方4人のサバイバーはキラーに対して攻撃する手段を持たないかわりに、気を引いたり隠れたりしてキラーを妨害し、手分けしてマップ上に点在する発電機を回すことで、ゲートを開け、マップからの生存脱出を目指す。

個々の対戦は、霧の森で行われる「儀式」と呼ばれ、明確な勝ち負けはないものの、基本的にキラー側はサバイバーの全滅、サバイバー側は全員での脱出を目指す。

私はその時キラー側で、「この一戦で今日は終わりにして寝ようかな…」などとぼんやり考えながら、マッチングを待っていた。ロビーでは、キラーから一方的にサバイバーを見ることができる。サバイバーが持ち込むアイテムなどを確認して、戦略を練ることができるのだ。さらに、プレイヤー名からSteamのプロフィールを見ることもできる。

「このドワイト使い、配信者かぁ。ゲームやり込んでて上手そうだなぁ…」

それが、最初は対戦相手として出会った友人の第一印象だった。

ドワイト(イメージ)

4人のサバイバーに私を足した5人全員のチェックがそろい、クヮァーーンという音と共に、儀式が始まる。

選ばれたマップは、マクミラン・エステート<コール・タワー>。うん、悪くはない。

マクミラン・エステート<コール・タワー>

私が使っていた「リージョン」というキラーは、攻撃が決まれば、高速でマップを駆けめぐり連続攻撃を繰り返して試合を優勢に運ぶことができる。ただし一発逆転するのは難しいタイプなので、序盤早々に攻撃を決める必要があった。武器はサバイバルナイフのみで、飛び道具はない。

とにかく1人落とそう!と思いながらマップを進むと、先ほどのドワイトを発見した。いざチェイス、鬼ごっこ開始!しかし彼の逃げ方は上級者のそれだった。 

障害物の周囲を最短距離で回り、後ろを振り向きながらマップ上の読み合いポイントではきちんと駆け引きをしてくる。キラーの方が移動速度は速いものの、攻撃をかするとわずかにクールダウンが発生して距離を取られてしまうので、無闇に攻撃することはできない。

「ダメだ!初動で時間を取られすぎてる!」

そう判断した私は、体勢を立て直すためにターゲットを変更することにした。この時点でかなり焦っていたが、幸い、急なターゲット変更に適応しきれなかった他のサバイバーをダウンさせることができた。

ここからサバイバーを抱えて、巨大なフックの場所へと移動して宙吊りにしなければならない(サバイバーの数を減らすには、この作業をそれぞれにつき3回行う必要がある。キラーはやることが多く大変だ)。

よっこいしょ――と這いずり状態のサバイバーを抱えようとした瞬間――例のドワイトが懐中電灯を握って目の前に飛び出し、私の顔目がけて光線を放った!!

「あああああっ!!!スタンするっ!!!」

スタンしてしまえば、腕の中のサバイバーは拘束から放たれ、サバイバーを追いかけてダウンさせるところからやり直さなければならない。スタンが入れば、この試合完全に負け…。

眩しさのあまり真っ白になった画面を見つめ、もうダメだ…と思いながらも、私は右手のマウスを動かして、視点を光線から外した。

そして………

…………あれ?まだサバイバーが手の中にいる………

どうやら、懐中電灯の当たるタイミングがわずかにずれていたらしい。視界は奪われたもののスタンの判定は外れたのだ。

「まだ頑張れる」

そう思った瞬間、アドレナリンのスイッチが入った。

普段は反射神経もキャラクターコントロールもぱっとせず、ふわふわとプレイしている私だったが、この時は違った。

残す発電機を固める、チェイスが上手な人は深追いしない(板が減ってからなら追ってもよい)、相手のいやがることを考えて、定石を外さずに立ち回る。頭の中の思考をゲームでの動きにきちんと反映できた。

ドワイトとの再びのチェイスも、相手が格上であることはわかっていたので、ええい!とあえて読み合い無視で突っ込みながら攻撃ボタンを押したら倒せてしまった(「そこ突っ込んでくるの!?」という相手の声が聞こえた気がした)。

そうして必死にコマンドを入力し、サバイバーを1人ずつ生け贄に捧げて、最終的には、全滅を取ることができたのだ!

競技スポーツや競り合いをあまりやってこなかった私にとって、起死回生による勝利というのは貴重な体験だった。終わった後はしばらく燃え尽きて、椅子にもたれかかり呆然としていたのを覚えている。

それから、少しテンションがあがっていたこともあり、ドワイトのプレイヤーの配信で挨拶をしてみることにした。

私がチャット欄に「対戦ありがとうございました」と書き込むと、彼は爽やかに「ライト外しちゃいましたー!こちらこそありがとうございます!」と答えてくれた。それから少しチャットでやりとりをして、ゲームやアニメの好みが似ていることを知り、一緒に遊ぶことになった。彼は最初の印象そのままに、ゲームがとても上手なうえに気が良い人で、彼の友だちもそうだった。

それからいろいろなゲームを彼らと一緒に遊び、たくさんの時間を共に過ごして、ゲームとは関係のない人生相談に乗ってもらったり、逆にこちらが乗ったりもして、いつしか彼らは、かけがえのない存在になっていた。私が困難のまっただ中にいる時も、適切な距離感で構ってくれる、居心地の良い、安心できる人たち。「人に自慢したいくらいの友人」なんて、正直、この年になっても作ることができるとは思っていなかった。しかも相手の顔や本名も知らないのに。自分は本当にしあわせものだと思う。

あの日、霧の森で、出会ったのはただの偶然かもしれない。でもあの儀式が、私の人生にとって大きな意味を持っていたことは紛れもない事実だ。

· · • • • ✤ • • • · ·· · • • • ✤ • • • · ·· · • • • ✤ • • • · ·· · • • • ✤ • • • · ·

読んでくださってありがとうございます!
去年のゲームとことばも面白いので、読んでみてね!
あと、感想や拡散も超うれしいのでよろしくお願いします! #ゲームとことば をつけてね!



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?