パンを与えられたら、本を与えよう

 旅とは、自分の住んでいない場所に住む人から何かを受け取る営みである。移動、宿泊、食事など身の回りのありとあらゆるものを与えられ、私たちは旅をしている。否、正確にいえば旅を「させてもらっている」のだ。
 乗り物を運転する人、旅館を掃除する人、食事を作る人、誰一人欠けても、旅は成立しない。やはりそういう人たちに恩返しをしたいものである。
 ここでインフルエンサーなら旅先をSNSで紹介することで、より多くの観光客を集めることができる。しかし私たちにはバズらせるだけのコンテンツ力はない。我々は「代金」以外に謝意を示す方法はないのだろうか。

本を贈ろう〜北海道壮瞥町の例〜

 北海道に壮瞥町というりんごの名産地の町がある。「アイドルマスター ミリオンライブ」というコンテンツに登場するキャラクター「木下ひなた」は北海道出身でりんご農家の娘という設定なので、壮瞥町の出身ではないかという推測がファンの間で広まっていた。その後公式コミカライズでひなたの出身地が壮瞥町であることが明らかにされた。その知名度はミリオンライブのアニメ化によって火がつき、ついに2023年秋に木下ひなたが「壮瞥町りんご大使」に就任した。同時に、壮瞥りんごめぐりとして町内各所でスタンプを集めるとひなたグッズがもらえるイベントも開催された。

https://www.town.sobetsu.lg.jp/iju/kyo/2023/10/post-350.html

 さて、そのニュースが流れると、全国からプロデューサー (アイドルマスターシリーズのファンの名称)が集まり、イベントの拠点となった施設「ミナミナ」に大量のひなたグッズが置かれることとなった。

 その経緯を記した本がこちらの『木下ひなたさんの(祝!)壮瞥町りんご大使おめでとうの本』である。単にキャラクターと地域の関係性を述べたものにとどまらず、地域おこし協力隊の方へのインタビューやりんご栽培の歴史など様々な内容が盛り込まれている。

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2259737

 さらにこの本は、2023年12月31日にコミックマーケット103にて頒布されたのだが、なんと壮瞥町観光協会から法被を借りて出展したとのことで、協力度の高さが窺える。

本を贈ろう〜埼玉県八潮市の例〜

 もうひとつ、同じ人が書いた『垳ときどき桁?』についてもご紹介できればと思う。こちらは埼玉県八潮市にある地名「垳」(がけ)についてまとめた本で、こちらも地名の説明だけにとどまらず、「八潮の地名から学ぶ会」の方へのインタビューを含めたものとなっている。
 この本は、八潮市立資料館に資料として収蔵されている。

 なお電子書籍で通販も行われている。

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=1798263 

 このように、旅人は「本を書いて寄贈する」あるいは「販売する」といった形で地域振興の力になることは可能ではないだろうか? もちろん、上記の2例のように対象地に本を寄贈するというのは地元の人の協力あってのことである。ただ本を書いて送って終わりというだけではなく、対象地の人に喜んでもらえるような内容を書かねばならない。
 

本作りの概要

 「本を作る」というとどうしても負担が大きいと感じる人が多い。しかしイラストと違って文章系同人誌はWordやPowerPointなどで作ることができる。これを語り出すと文章の長さが倍以上になるので割愛するが、入稿時の作法など細かく教えてくれるので、心配は無用である。これを読んでいる方もぜひ旅先に本を作って贈ってみるのはどうだろうか。


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