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Prologue

そして僕は途方に暮れる

峠道に差し掛かった時だった。
ギアを落としコーナーに飛び込むと…加速しない。アクセルを上げても虚しく何かが空回りする音がする。道端に寄せ、とりあえず一服点ける。
エンジン、クラッチ、ミッション…工具がないので、原因を想像する事しかできない。近くのバイク屋も、3件中どこもレスキューには来れないと言う。
日は傾きかけてきた、途方に暮れている時間はない。優先順位を決めた。
まずは帰ること、そのためには動かない相棒を置く場所を探すこと。不幸中の幸いで、止まった場所は山に入る最後の集落の外れだった。一番近い民家まで戻り、呼び鈴のない扉をノックする。誰も出ない、そんな時には声をかけるのが田舎のセオリー。引き戸を開けると奥に向かって声を張る「すみませ〜ん!」ゴソゴソと音がして、ランニングにステテコ姿の爺さんが出てきた。わけを話すと裏庭に置いて良いと言う、ハードルを一つ超えた。

ステテコの ジジイの家に 捨テテコぅ

帰れない二人

さて次のミッションは、自身を街まで連れて行く事。なんせ山の中、最寄り駅までは20キロある。スマホは便利だが、希望と同時に絶望も示してくれた。
仕方なくあえて道の左側を歩きながら右手の親指を車道に突き出す。ヒッチハイク…乗せてくれる人がいるとは思わないが、なんせ20キロを歩くと4、5時間はかかるから、可能性がある限りは何でもするのだ。
バイクの装備は丈夫な代わりに暑くて重い。上着は全てのファスナーを開け、シャツのボタンも外したが、汗はとめどなく噴いてくる。道端でコーヒーを淹れるために水を持ち歩いているのだが、それも全て飲み干した。
元々車の少ない山道で何台かの車に避けられた後、今追い抜いた1BOXが100m先で停まった。そしてハザードを焚いている。「ハイクですか?」声をかけてくれたのは若いアベックだった。わけを話し駅まで乗せてもらった。5時間が20分になった。

ツーリング 行きはバイクで 帰路ハイク

翼の折れたエンジェル

次の週末、親戚に軽トラを借りて相棒を迎えに行く。渋滞は嫌なので、早朝に家を出る。
スマホからはR.Stonesのホンキートークウィメン。昔バイトで配送の手伝いをしていた時、が運転手の人はラジオしかないワゴンにラジカセを持ち込んで、ホームセンターで買ったStonesのテープをかけていた。その1曲目がこの歌、だから旅立ちの歌といえばこの曲とインプリンティングされたらしい。
閑話休題 爺いの家までは3時間、訪ねると耳の遠い爺さんに代わりマシンガントークの婆さんが出てきた。爺さんの話はよく分からず週末まで様子をみて連絡がなかったらバイクの事を警察に相談するつもりだった、台風で山道が不通になってからこの集落に抜けて来る車やバイクが増えた…聞き流す術はオフクロで身に付けている。話の切れめで、礼を言いバイクを積み込んだ。
その足で地元のバイク屋に持ち込むと予想外の展開だった…

トラブルが 無きが理想の トラベルだ

春よこい

「カウンターシャフトですね」想定していない答えだった。エンジンに付いているチェーンを回す歯車が空回りしているという。それもエンジンから生えている軸側の山が削れているらしい。という事は…エンジンを開けその軸を交換する必要がある。だがそれでは済まなかった。
30年前の車両なのでメーカーにも部品が無いという。中古なら部品は手に入るが、そうなると保証できないのでディーラーでは手が出せないのだと。部品を変えるか、エンジン一式載せ換えるか、車両を乗り換えるか…その悩みで数ヶ月が過ぎた。
ある日、カフェでイラストの個展が開かれ、その作家の愛車がウチの相棒と同じだと知る。話すとマニアックなバイクが好きで、カスタムのこだわりがあるという。キラキラとした瞳を見ていると、段々悩んでいるより直さなくちゃという気持ちになってきた。レストア心の #エンジンがかかった瞬間 だった。

春までに… どうするどうなる サクラサク?

Motorcycle

HONDA
BROS

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