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東光の酒蔵 小嶋総本店

「為せば成る、為さねば成らぬ何事も...」という有名な文句を残した、上杉鷹山が一生をかけて改革をした土地、米沢。街の至る所に明治・大正時代に建てられた建物が残り、情緒的な雰囲気がただよう。この土地で400年以上酒造りを続けている酒蔵が『東光』の銘柄で有名な小嶋総本店だ。
創業はなんと慶長2年(1597年)。江戸時代以前に創業して酒造りを続けている酒蔵は数える程度しか残っていないから相当古い類の酒蔵だ。全国でも11番目に古いとかで、現蔵元の小嶋健市郎さんは24代目。歌舞伎の市川團十郎は今度、海老蔵が襲名すれば13代目なのだから、比べるとどれだけ歴史があるか、なんとなくわかるのではないだろうか。 

 『東光』の名は、城の東側、朝日の上方角に蔵があることから名づけられたそうで、1601年に上杉景勝公が米沢藩に入部してからは、上杉家御用達の酒屋として抱えられ、飢饉で米不足の時代、米を節約するために「禁酒令」が出される中でも、酒造りを許されていたという。資料館に併設された販売店では『上杉家献上酒』という名で、江戸時代の酒造りを再現したお酒が、蔵限定で販売されている。さすが殿様に献上されていた酒!後ひかない、きれいな飲み口で、精米技術の乏しいその時代に、どれだけ手間隙をかけてこのお酒が造られたのかと、想像してしまう。(2本日本酒会用に、東京に送ったので、僕が理事を務める、社団法人主催の日本酒会で味わってください)
 
 

 この酒蔵には弟の大学の先輩である小野さんが務めている。厚かましくも、蔵の事務所でそのことを伝えると、突然訪れたにもかかわらず、歓待していただけた。
6年くらい前に羽田空港で販売しているところで会って「うちの弟もN大なんだよね」なんて話をすると、「え、熊崎の兄ですか!」という話になり、偶然にも弟のサークルの先輩と知り驚いたのを思い出す。そんなことを本人は覚えているだろうか?と少し不安ではあったけれども、しっかりと覚えていてくれ、本当に嬉しかった。
 そしてこの縁で蔵見学をさせていただくにも至った。コロナで蔵見学お断りという酒蔵が多い中、貴重な現場を見せていただけたのはめちゃくちゃありがたかった。

 

 訪ねた3月の中旬は甑倒しといって、すでに酒造りを終了して後は貯蔵だけという酒蔵さんも多い。しかし、小嶋総本店ではこの日も蔵人たちが仕込み作業に精をだしていた。天井から吊るされた紙には、この日に仕込まれる米の仕様が書いてあり、蒸しあがった米が放冷機にうつされ順番にながれてくる出口で麹菌を振りかけ、素早く室へと持っていく。こうした一連の流れをリレー方式で活気あふれた雰囲気のなか行われていた。(麹菌を放冷機の出口で振りかけるのはこの蔵独自の手法)。
 史料館にいくと、酒造りの仕込み唄(酒造りを夜中も休まずやるために蔵人たちが歌う唄。一節歌うことで時間を計っていたという説もある)が流れているけれども、昔も今も変わらず、威勢の良い蔵人の姿がここにはあるんだろうなあと考えてしまった。
 

 変わらず手作業でやる作業がある反面、全国に出荷される東光の酒蔵とあって、最新のマシーンを導入して自動化されているところもある。中でも洗米と浸漬(米を水に浸すこと)を同時に行う機械は初めて目にした。
小野さん曰く「この機械を導入したことで、洗米・浸漬を1人でできるようになりました。浸漬前と後で重量を比較すれば、どれだけの水が含まれているかわかり、それが適正だったか検証てきます。これまでは職人の感覚で行っていたので、人によって水の量がまちまち。機械化で個人差がなくなりました」と、教えてくれた。家でご飯を炊く時も、「今日は硬かったな、柔らかかったな」と水加減で米の味が決まってしまうのと同じで、浸漬は最初の工程だけにとても大切なのだなあと、改めて見直させられた。

  お酒の仕込みの工程として、もう一つ特筆すべきことは、絞りの段階から空調が徹底管理されていることだ。「大学で一緒に勉強していた若手の次期蔵元と話していたのですが、お酒をより成熟させ完成度を上げるには絞りの工程以降が大切なんです」と小野さん。まるで大切な子供を安心して夜の眠りにつかせるために子守唄でも歌うように、手間をかけ、お酒を眠らせていくのだった。
 

 小嶋総本店は仕込みを行なっている蔵と、史料館が分けられている。資料館の方は「東光の酒蔵」と検索するとGoogle mapに出てくる。一般には蔵見学は開放していないので、観光に訪れる際はこちらへ。かつて仕込みも行っていた資料館には、昔使われていた仕込み用の大きな桶や道具が置かれている。こちらに売店も併設されおり、米沢の観光には欠かせないスポットだ。

 伝統が生き付いた、上杉家御用達の酒蔵。その裏には最新の設備と蔵人の心意気。温故知新の精神で生まれてくる伝統がある。東京では量販店でも置かれている『東光』。一度口にしてみれば、晩酌にかかせない愛用の酒になることだろう。

小嶋総本店(東光の酒蔵)
住所:山形県米沢市大町二丁目 3-22(柳町上通り)
TEL:0238-21-6601
ホームページ:https://www.sake-toko.co.jp/


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