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8年間好きだった女に会いにいった

8年間好きだった女に会いにいった。
場所は横浜。
交通の弁の悪い田舎から呼びつけたので、彼女は私の40分も前に着いていた。
ルミネ一階でぼんやりとスマホを見ている彼女。
声をかけると、いつもと変わらぬ可愛らしい笑顔の綻び。
私が、8年間恋焦がれた彼女である。
しかし、過去のように心臓が踊ることはなかった。

経緯を話そう。
私は女である。
ご縁があって、今は大学で出会った男性とお付き合いをさせていただいている。
いわゆるバイに分類されるのかもしれない人間である。(詳細は長くなるので割愛する)
彼とお付き合いさせていただく数ヶ月前まで、一人の女が好きだった。
好きで好きで仕方なく、物理的に距離があっても諦めず、
気がついたら8年間も経っていた。

彼女とは中学の部活で出会った。
ショートボブの眠たげな瞳が魅力的な女の子である。
どこか刹那主義な雰囲気があり、のらりくらりと、指の間をすり抜けていくような。
どこかつかめない不思議な魅力を持った女の子である。
私は彼女が好きだった。
それこそ、世間一般で言う「彼氏彼女」の「彼氏」側に立って、彼女を可愛がりたかった。
囲い込みたかった。
彼女の笑顔を独り占めしたかった。

彼女は魔性の女である。
私にとってのファムファタールそのものだった。
欲しい時に欲しい言葉をかけてくれる。
躊躇いもなしに「好き」と述べ、
「もし、君が私の彼氏だったらいいのに」
「付き合うなら、〇〇ちゃん(私の本名)がいい」などと言い放つ。
当時、人に好意を伝えることが恥であるという観念を持っていた私は面食らった。
与えられたことのないストレートな好意に、脳震盪どころでは収まらなかった。
そんな言葉を吐くくせに、こちらから好意を伝えれば、のらりくらりと躱される。
必死に言葉を紡げど、彼女から帰ってくるのはそっけない「ありがと」だけ。
そんな彼女に魅せられ、拗らせにこじらせ、8年間。
ずるずるずるずると、しょうもない恋心を引きずってきた。

片思い8年目の秋。
ようやく諦めがついた。
彼女に女がいる可能性があったからだ。
我が身を振り返る。
私も大学3年生。
恋人ができたことのない状況で、他に女がいる女を追い続けるのか。
それで、幸せになる可能性はいかほどか。
理想の恋愛とは何か、考え直すことにした。

私の理想の恋愛はサルトルとボーヴォワールの契約結婚である。
完全に彼らリスペクトとはいかないが、相手の自由を縛らず、互いが互いにとって相互に利益になるような。
そんな恋愛。

彼女と過ごす未来を考える。
どう考えても彼女のATM以上になれる気がしなかった。
こちらがどれだけ尽くせど、彼女がこちらを見つめることはない。
彼女が好きなのは手のかかる困ったちゃんなのであって、私のような聞き分けの良い都合のいい女ではない。
彼女の奴隷になるのもそれはそれで幸せだろうが、一生涯、心の飢えは満たされないだろう。
そう思うと、きちんと対等に自分を見つめてくれる人を見つけよう。
そう思い立ち、未練たらたらではあるが、片思いに終止符を打った。


さて、今回、なぜその彼女に会いにいったのか。
一言で言うなら気の迷いである。
今の彼氏にあまりにも愛されているが故に、不安になったと言うべきか。
彼氏がここまできちんと向き合ってくれているのに、自分が彼女への未練を引きずっていることが負い目であった。
だから、きちんと彼女を諦めることができているかの確認をしたかった。
確認をすることで、彼女への恋心の欠片まで、全て叩き割って粉々にしたかった。
それが彼氏にとっての義理でもあるし、私にとってのけじめでもある。
また、彼女と友達関係に戻るための第一歩でもある。
エゴであるのは十分承知だが、そう信じて彼女を呼び出した。

結論
私は彼女をもう好きではなかった。
ああ、悲しいかな。
空虚でしかなかった。
以前は腕が触れるだけで、何の気なしに手を握られるだけで
あんなに多幸感に見舞われていたのに。

いまでは、何も思わない。

彼女は確かに可愛かった。
飾られた爪の先から、少し跳ねた毛先。痛いのを我慢して開けたリップピアス。
にこやかに微笑む姿も、いちご飴にはしゃぐ様も。
可愛くて、守りたくて、貴きものであった。
ちょっとしたミスに落ち込んで、取り乱して、どうしようと焦る様も。
なにもかもが可愛かった。

でも私はときめかなかった。
しょぼくれて、腕を取られて
「頭撫でて」とねだられるなんて、以前の私にとっては死んでもいいくらいのご褒美である。
それでも、何も感じなかった。
言うのであれば、手のかかる妹を慰めるような、そんな感覚。

彼女への恋愛感情は私の中で思い出アルバムに封印されたのだった。
それを、よしとするべきなのだろう。
今の彼氏に操立てするのであれば。
過去を精算できているということを喜ぶべきなのであろう。

でも、なにか、どこか、寂しくて。
帰りの改札に消える彼女をぼんやりと眺めたまま、動けなかった。

私は、彼女が好きだった。
今の私は彼女によってできている。
社交性に、振る舞い。愛嬌や会話の仕方。
服の趣味からなにからすべて。
彼女に教えてもらった。
今でも嫌になるくらい染み付いている。
憧れで、守るべき対象で、ずっと一緒にいて欲しい。
本気でそう思い続けた8年間だった。
それがここまであっけなく、なくなってしまうのか。
そう思うと、自分の切り替えの速さに吐き気がした。

私は今、幸せである。
自分と向き合ってくれる彼氏に恵まれ、やりたいことに邁進する日々。
感情の浮き沈みあれど、満たされた日々だ。
きっとこれでいいのだ。
きっと。

ありがとう、8年間の恋心

本当に好きでした。
今でもあなたのことを尊敬しています。
許されるのなら、これからもどうぞ、私を友達として扱ってください。
最後に。貴方に不埒な思いを8年間も燻らせたまま、友達の皮を被っていたこと、心より謝罪申し上げます。
素敵な相手を捕まえて、幸せになってください。

身勝手な備忘録でした。以上。

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