見出し画像

【2Q決算分析】ルネサスエレクトロニクス(2023年8月)

まさか上場企業の大半の記事を作成する気はありませんが、なるべく川上の業界から決算を見て記事にしていこうと考えてました。しかしながら、今回は先にルネサスエレクトロニクスの決算説明書を読んで記事にしていきたいと思います。

個人的に数年前にBEVの夜明けが始まったくらいから注目していた会社で、「なぜルネサスはトヨタに車載チップを安く売り続けるのか?早く値上げした方がいい」と思っていました。その後、那珂のファブの火事もあって危機的状況であったルネサスですが、最近は「合理的な思考になり、外資化した」という噂も聞くようになりました。

2022年度12月の決算では、売上高が前年比+51%の1兆5000億円を突破、営業利益は37.2%=5594億円を計上。最近の半導体で年成長率50%を突破した企業はNvidiaやAMD、Qualcommなど超優良企業しかなく、ここにルネサスが加わったのは衝撃的です。

当方も半導体から離れていたので業界動向はそこまで深くは追えていなかったのですが、気が付いたらルネサス爆益、株価急騰になっていました。つまりは車載チップの需要をきちんと取り込むことが出来たということですね。

そんなルネサスエレクトロニクスは12月決算の会社ですので、先月の決算は2Qの発表になります。

2Q(4-6月)
・売上高:3,771億円
・営業利益:1,453億円
・営業利益率:38.5%

事業は主に2本柱で、①自動車向けと②IoT向けの2つです。構成としてはIoTの方が少し多いですが、車載向けもIoT向けもどちらも伸びていることが伺えます。どちらも営業利益率が35~40%ほどあり、非常に競争力があることがよく分かる数字です。

特に在庫を減らして無理やり作った数字というわけでもないですし(むしろ流動在庫は増えている)、円安のパワーでドーピングしているわけでもありません。

ウエハーの投入量は添付の通りです。2023年は半導体業界が失速しているので、ルネサスも例外なく投入量が下がっています。TSMCに代表されるように、近年ではウエハーの大型化や回路の微細化によって、スマホやPCのスペックが劇的に上がってきました。しかし、ルネサスの場合は車載向けとIoT向けですので、ウエハーは6インチや8インチも多いですし、回路の線幅も2桁nmです。つまりは、日本の半導体技術でも十分に対応できる世界です。

半導体製造装置は世界レベルで鍛えられていますので、生産技術については非常に強力なサポートも得られます。

また、今までの企業研究では言及してきませんでしたが、ルネサスの場合は潰れかけて産業革新機構が助けたので、バランスシートも軽く見ておきましょう。以下に箇条書きでコメントしておきますね。簡単に言うと、順調に改善されています。

  • 資産合計は2023年6月末に31,224億円となり、前年同期比で2,821億円増加しました。そのうち、現金及び現金同等物は4,581億円となり、前年同期比で2,102億円増加しました。また、のれんは13,974億円となり、前年同期比で1,028億円増加しました。

  • 負債合計は2023年6月末に12,268億円となり、前年同期比で1,357億円減少しました。そのうち、有利子負債は7,337億円となり、前年同期比で1,523億円減少しました。

  • 資本合計は2023年6月末に18,956億円となり、前年同期比で4,464億円増加しました。そのうち、親会社の所有者に帰属する持分は18,726億円となり、前年同期比で4,265億円増加しました。

  • **D/Eレシオ (グロス)**は2023年6月末に0.39となり、前年同期比で0.22ポイント改善しました。**D/Eレシオ (ネット)**は2023年6月末に0.15となり、前年同期比で0.29ポイント改善しました。

  • 親会社所有者帰属持分比率は2023年6月末に60.6%となり、前年同期比で9.7ポイント改善しました。

  • **レバレッジレシオ (グロス)**は2023年6月末に1.2倍となり、前年同期比で0.4倍改善しました。**レバレッジレシオ (ネット)**は2023年6月末に0.5倍となり、前年同期比で0.7倍改善しました。

これでINCJも株をいくらか売却し、主要株主から外れることになりました。日の丸半導体の復権を目指す自民党政治家・甘利さんもニッコリでしょうね。ラピダス、キオクシア、ルネサス、ソニー、TSMCと、これだけ揃えば日本からアジアへ輸出するサプライチェーンが完成するでしょう。半導体製造装置メーカーも相変わらずシェアが高いですし、日本人の工学系の若手や中堅も段々と半導体業界にシフトしていっています。(その分ヤバくなる業界は沢山出てきますが)


ルネサス復権の理由

ここまでルネサスが復活したのは業界の伸びとポジショニングが完璧にハマったからに他ならないのですが、当方が注目するのはやはり組織。過去のnote記事をご覧になられた方なら納得かと思いますが、「組織の成果はトップ。どんなことがあれ、トップが全てであり、トップに注目しない企業分析は本質的ではない」これです。

というわけで、結論から言えばルネサス復権の理由は社長です。業界や製品が優秀なのは前提として、それがなるべく多くの顧客に届けるには組織がきちんとしてなくてはいけません。この点で、私は組織論にうるさく、トップ論者です。

話を戻しまして、今のルネサスは昔とだいぶ違う、という噂を聞くようになったのは2020年のコロナくらいからです。

2019年に社長兼CEOとなった柴田英利氏が大きく動きだしたのでしょう。自動車向けは日本が得意な分野なため、日本人がトップを務め、IoTのトップにはシリコンバレーにいるSailesh Chittipeddi氏を執行役員として据えました。No.2ポジションの片方に、外国人の部門トップを置いたのがまず1つ目のファインプレーでしょう。

この体制になって、人工呼吸器用の回路ボードを速攻でリリースしました。医療機器大手の製品に特化したボードを組むことができれば、医療版インテルになれます。米国の半導体メーカーやTSMC他が先端分野に集中しているその隙に、メディカルのIoT向けで動いたのが当たりました。

その他には5G基地局向けのネットワーク技術にも参入を決めたりと、さすがはシリコンバレーのネットワークがあるChittipeddi氏がいることで、新しい技術に向き合う姿勢も変わっています。新しいことをやるにはトップが「どんどんやれ」と背中を後押しするのが非常に大事で、日本人の頭の固いおじさんに忖度した資料で恐る恐る承認依頼をするようではなかなかスピード感が生まれません。

そして、今のルネサスは海外売上比率が80%近くなっています。代理店もドライに絞ったりと、もはやJTCと呼んでいいのか悩むほどにグローバル企業化しています。

たけびし…契約終了(20年3月期有報から記載無)
加賀デバイス…契約終了(20年3月期有報から記載無)
八洲電子…契約終了(20年3月有報から記載無)
協栄産業…契約解消(19/12/20)
三信電気…契約解消(20/4/6)
佐鳥電機…契約解消(20/4/10)
グローセル…一部契約終了(21/8/3)
菱電商事…2020年1月1日から契約期間記載変更
藤田電機工業…20年3月に東海エレに販売事業譲渡
新光商事…契約期間中
リョーサン…契約期間中
東海エレ…契約期間中
立花エレ…契約期間中
萩原エレ…契約期間中

パワー半導体の復活

EVシフトにより、伸びることがほぼ間違いないのがパワー半導体。ルネサスはここに参入する方針をすでに示しています。SiCパワー半導体は同社の高崎工場の6インチ(150mm)ウエハーラインで造る予定で、平成時代のルネサスでは考えられなかった攻めの投資ニュースです。

SiC(炭化ケイ素)技術の世界的リーダーであるWolfspeed, Inc.(本社:米国)から、10年間にわたりSiCウェハ(ベア / エピタキシャル)の供給を確保することも決まり、復権のピースは整っている気がします。BEV向けは海外メーカーに売ることになりますが、円安の恩恵も受けられます。

一応、SiCシリコンについてあまり詳しくない方向けに軽く説明しますと、従来の信越化学が供給しているようなシリコンウエハーから成るパワー半導体に比べ、SiCを用いたデバイスはより高い電力変換効率やシステムコストの削減に寄与します。そのため、EVや再エネや蓄電設備、充電インフラ等、幅広い用途で使用できます。間違いなく伸びる市場です。

過去に閉鎖した甲府工場を再開し、ここではIGBTの生産能力を上げ、一気に攻勢を掛ける予定です。山梨には東京エレクトロンやTHKの工場がありますし、山を越えたところにはファナックがあります。近くに半導体ファブも無いので、人材が他に獲られることはなく採用が進んでいると説明されています。

もちろん、だからこそ競争は世界で激化しており、乱立する日本企業は統合する必要があるという論調も出てきています。個人的に、ルネサスが富士電機や三菱電機と合体するとは思えず、この会社はこの論調は適当に流し、独自路線を行くように思います。日本人社員の肩身も狭く、ほぼ外資化しているルネサスと、三菱や富士がマッチするとも思えませんので。

まあ、2010年はこんな状況だったんですけどね(笑)


人材について

外資化してきている、と散々書いてきましたが、やはりそれでも日系企業の昭和体質は残っていると思います。それを踏まえて、いくつか転職サイトの退職者レビューを見ていこうと思います。

・・・確かにグローバル化してきており、アジャイルや透明性などに馴染めない昭和体質の従業員は普通に降格もしているようです。そして、海外の子会社を買収した後は、子会社といえど対等以上に扱うことで、日本人社員のプレゼンスは落ちているという声もありますね。

部署によっては未だに日本風の社員や働き方は残っているものの、全体で見れば成果主義で組織もフラット、経営層は外国人で、英語のできる若手~中堅は働きやすいという声も上がっています。半分は外国人社員で、今後も日本人社員は減らしていくという方針も出ており、日本は沢山ある国の1つになっていくようです。

つまりは会社としては伸びており、英語が出来て成果の出せる若手は伸び伸びできる一方、多くの中高年社員は要らないと言われているようなものであり、中間管理職は自分の昭和マインド及び昭和風の経験と、現在のグローバルな今風の働き方のギャップに苦しむことでしょう。

そして、あれほどまでに崩壊してきたルネサスですので、残っている管理職のマネジメント能力は誰が何と言おうと壊滅的。開き直ってグローバル風に適応して部下を伸び伸びやらせている人と、脱却できずに昭和的なやり方を続けている人と2分されていることでしょう。もちろん後者は時間が経つにつれて降格するのですが、会社の業績が良い分、うまく世代交代できない部署もあるようで、割とカオスなように見えました。

2021年から業績が急に伸びてきましたので、外部からは良いように見えますし、経営層は伸びる業界で必要な投資の意思決定をしていると思いますが、現場レベルで行くとまだまだ混沌としていることでしょう。中間管理職と経営レベルの間に分断があり、いち早く中間管理職を減らして使える若手を上に引っ張り上げたいところですが、業績が良いとなかなかマイナス評価を付けづらく、そうなると若手は上司ガチャの差が激しいはずです。


総括

ようやく復権してきたルネサスエレクトロニクス。今後もパワー半導体やIoT向けを中心に伸びていくように思います。

微細化の勝負ではありませんので、重要となるのは営業力とスピード感のある開発力です。顧客の用途に特化した製品をいち早く開発することで、微細化をしないでも最適化のソリューションを提供できますから、そうなると現場レベルのスピード感をいかに上げていくかが今後の国際競争で勝ち抜くポイントです。

その中で懸念なのが人材活用ですが、グローバル企業なので転職サイトにあるような日本人の退職事案は大した問題ではありません。海外拠点に外国人と英語のできるエース社員がおり、海外企業に販売するので、日本の拠点に昭和風のオジサンがいても大勢に影響はしないでしょう。売上比率から見てもそれは明らかです。工場に投資し、工場の供給キャパさえしっかりしておけば良いのです。

このような組織の構成を考えますと、ルネサスエレクトロニクスは他の日系パワー半導体メーカーとよりも海外市場での競争力があるように思います。従業員として入社する場合は英語必須で、入社後は上司ガチャの当たりを引き、働く中で海外拠点の社員とのコネクションを強化し、駐在させてもらうことで素晴らしいワークライフバランスが得られると思います。昭和型社員も残っていますので、もう少し日本内部での混乱は続くでしょう。

ここから先は

0字
このマガジンを購読すると科学技術の知識やビジネスに必須の知識が身に付きます。これらは真の投資家になるためには必要な素養だと考えています。

製造業の最前線で戦うマーケッターでもある筆者による経済(グローバルマクロ)の勉強マガジンです。マクロ思考が出来るビジネスマン・投資家向け。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?