暗闇から抜け出したかった夏休みの夜に

私は10代の頃、夜が怖かった。ひとりが怖かった。
夏休みの夜も怖かった。

夏休み。楽しいこともあったり、無駄にゴロゴロ横になって過ごしてみたり。いつもより自由な日々を過ごしつつも、夏休みはあっという間に終わりが見えてきてしまう。

夜になる。暗闇が私を囲む。家の中が静かになり、私しか起きてないことに気づく。夏休みの自由から、またいつもの学生生活へと戻ると思うと、嫌になってくる。夏休みの夜はその悩みを毎日ひとりで抱えてしまう。真っ暗な世界で怯えながら過ごす夜。

ただ、ひとりでただ目の前が真っ暗な世界にいるように思える。誰もいない真っ暗な世界にひとり、涙を零しながら夜を過ごしているかのよう。

「自殺を考えるほどではないけど、今を生きるのがつらい。ひとりじゃないのにひとりな気がしてこわい。」

10代の頃の自分は、色々なことで悩んでばかりだった。

人より大きな悩みを抱えているわけでないけど、目の前にある悩みをどうするかで必死になってしまう。今にでも悩みを抱えすぎて砕け散ってしまうかのように。

人よりそんな大きなことで悩んでいないはずなのに。人より大変ではないはずなのに。なぜ、こんなにも辛いのだろう。なぜ、こんなにも怖いのだろう。なぜ、こんなにも悩んでいるのだろう。

そんなことを夜になると、いつもより増して脳内に浮かんでくる。どんなに些細な小さな事でも夜だと悩んでしまうことが多くて、ひとりで過ごす夜が怖かった。

人よりちっぽけな悩みのはずなのに…と自分で決めつけて。

そんな夜を日々過ごしていた10代の頃。
私はあるものに出会った。

それは、深夜ラジオ。

たまたま、大好きだった祖父から貰ったラジオ。眠れない夜にそのラジオのスイッチを入れてみる。そしたら、流れてくる音や人の会話、ラジオを聴いているリスナーへ目の前に向けた声などが聞こえる。その音や声を聞いたせいか、苦いものを食べたような顔つきがくずれて不思議と笑顔になる。声の主のことは知らないはずなのに、何故だか安心する。前にもどこかで聞いたことがあるのではないかと思うくらい、ラジオから流れている音が心地よい。不思議な感覚。

それから、私はラジオに食いついた。ひとりが怖くてどこか寂しい夜も悩みすぎて眠れない夜も、ラジオをつければどこか求めていたあたたかい時間に変わる。ラジオをつければ、ひとりが怖くて嫌だった夜が不思議な時間へと変化してあたたかく過ごせると思うと、ひとりの夜も怖くなくなり、好きになっていった。悩みなんてどんなサイズなのかどんな場所にあったのかを忘れるほど。ラジオが良いキッカケになったのか、眠れない夜に好きな音楽を聴いたりしても、その不思議な感覚のお陰で、目の前にあるひとりで抱えていた悩みを忘れられた。何か知っている音楽や声が聞こえると、安心するようにいつの間かなっていく。「ここが私の居場所なのかな？」と感じていく。

そうなってきた頃には、「最初から悩みなんてなかったのではないか？」と思うほど、心があたたまって過ごせるようになった。また「人よりちっぽけな悩みってなんだろう？悩みのサイズってなんだろう？」と思えるようにもなっていた。その悩みが薄れていく瞬間には、常にラジオや好きな音楽が流れていた。

10代の頃は、「人よりも…」と勝手に悩みのサイズや度合い比べては、自分が嫌になっていた時期でもあったし、そんなことで悩んでいる自分が嫌と悩みの迷路に入ってぐるぐる回っていた。

しかし、何かしらでその迷路から抜け出せることがある。
私の場合は、それがラジオや好きな音楽だった。

10代の頃の私は、音に助けられていたのだと思う。大人になった今の私も、好きな音楽や映像などの音に助けられている。悩みの迷路から抜け出すことは難しいし、「悩みから抜け出せ！」とも簡単に言えないし、言いたくない。けれども、その抜け出せるキッカケは身近な場所に転がっているのかもしれない。

大好きだった祖父から貰ったラジオ。私はたまたま部屋の中にあったラジオのスイッチを入れただけ。ただ、それだけで、悩みの輪から暗闇の迷路から抜け出せるようにいつの間にかなっていた。

これを読んでいる君も、いつか抜け出せる日が来るはず。

だからこそ、真っ暗な世界でほんのちょっとだけでも光っているようなものがあったら、まずは触れてみてほしい。怖いかもしれない。上手くいかないかもしれない。けど、その踏み出す気持ちがあるだけで、真っ暗な世界から抜け出せる一歩になっているのだ。

そして、君は確実に近づいている、暗闇の迷路から抜け出せる出口へと。

君の真っ暗な世界が変わることを願って。
夏の終わりにこの記事を書く。

#8月31日の夜に。 - NHK ハートネットTV