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直線的なアセン

 来年度がいよいよ迫っている。私は晴れて大学院生になるわけであるが、恥ずかしいことに院生にしては無知すぎている。後輩もできる。胸を張れるように私はもっと物性について知らなければいけない。今日からいろいろ勉強することにした。

今日のテーマ

今日のテーマは
川村肇著『半導体の物理』(槇書店版)
 1.3 Fermi-Diracの統計
志賀正幸著『固体の電子論 I』(まてりあ 第43巻 第11号 2004)
論文 J. Xia, S. N. Sanders, W. Cheng, J. Z. Low, J. Liu, L. M. Campos, and T. Sun "Singlet Fission : Progress and Prospects in Solar Cells." Adv. Mater. 29. 20. 1601652 (2017)
を読むこと。

Fermi-Dirac統計分布の導出

 半導体をやりなおすのは大変意義があると思った。目指すはトランジスタまでの理解である。学部のときはp-n接合まではなんとなく理解した。しかし完全ではなかった。したがって最初から振り返ることにした。今日は電子の量子状態の分布について理解するために大切なFermi-Dirac統計分布である。
 物性の人間がFermi-Dirac統計分布をいまさら学んでいるなんて冷や汗ものである。まあ、仕方がない。
 固体中の電子は熱的な擾乱によっていろいろな量子状態をとっている。温度が高いときに電子は高いエネルギーをもつ確率が高くなる。この話をすると思い出すのは高校物理から学習の経験があったMaxwell-Boltzmann統計分布である。これは気体分子運動のなかで出てきた統計分布であった。温度が高くなるにつれ速さが大きくなる分子の割合が大きくなっていく。発想はほとんど同じである。そして実際に固体中の電子の運動について採用されたケースがある。それは金属の自由電子についてのDrude-Lorentzモデルであった。これは1903年に完成したもので量子力学の完成が1925年であるから古典論に相当する。電子が波動として扱うことを知らなかった当時、自由電子を気体粒子と見做したのであった。もちろん完全ではなかったモデルであったが、電気伝導や熱伝導に関するOhmの法則やWidemann-Franzの法則を定量的に示したのである。天才だと思う。
 では半導体物理においてMaxwell-Boltzmann統計分布ではなぜ好ましくないのか。これはちょっと自分自身ピンと来ていないのであるが、半導体物理の理解は量子力学が必要だからである(もちろん金属だって量子力学は必要だと思う)。このときのキーワードは各々の粒子は区別しないこと、Pauliの排他原理の適用の2つである。Pauliの排他原理は電子の量子状態を2つ以上共有できないルールのことである。これらを反映したため古典からの脱却に成功している。
 Fermi-Dirac統計分布の式の導出をおこなったが以下のポイントがあった。
1. 各々の粒子を区別しないため懐かしき「組み合わせ」の階乗計算
2. 組み合わせ総数の最大は総粒子数 = N、総エネルギー = Eの条件下で考えるためLagrangeの未定係数法を用いる
3. 階乗を扱うことから便宜的にlogN!の形にしてStirlingの公式を用いる
4. Pauliの排他原理が意味をなさない条件下ではMaxwell-Boltzmann統計分布と等しくなるという仮定から残りの係数を求める
 今日はここまで理解できた。

自由電子論

 さきほどDrude-Lorentzモデル(古典的な金属の自由電子論)について述べたが、これを量子論的に考えたときどうなるかを考えたのがSommerfeldである。Sommerfeldは金属内の自由電子はその名の通り自由であるから原子核によるCoulomb束縛をうけないと見做して(たぶん)、自由電子のポテンシャルを一定とした。しかしそんな自由な電子でも結晶の外側を出るには当然高い壁があるとした。今回はこれを簡潔に示した箱すなわち「無限井戸型ポテンシャル」を考える。このポテンシャルによる箱を「井戸」と呼ぶところに日本人の感性が感じられる。この中に電子が存在するとき、電子の波動性を考えると固定端の波として振る舞う。このときのエネルギーはE = hvで知られるように波の振動数に対応する。つまり波の振動数が増すごとにエネルギーは高いといえる。このときの電子の状態を表す波動関数φを求めるには、ポテンシャルV(x) = 0、境界条件V(0) = ∞、V(L) = ∞を設定したうえでφ = Aexp(±ikr)を満たすようにすればいい。
 今日はこれを一次元から出発して三次元まで拡張したところまでおこなった。SommerfeldはここからFermi-Dirac統計分布を用いたそうなので、次回はここを少し追ってみようと思う。

論文

 論文については勝手に要約して公開するのはたぶん訴えられるのでやめた。ただ、そのなかで出てきた直線的なアセン(linear acene)はこの論文の主題である一重項分裂(SF)現象の中心的な材料を表現する言葉である。これだけ紹介して今日は終わる。

書くだけでも2時間くらいかかってしまった。毎日続けられるかなあ。

おわり



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