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The 1975 Tour 2023「At Their very best」 横浜ぴあアリーナMM 感想:''踊れるロック''

ステージに立つマシューヒーリーの姿を自然と目で追ってしまう。所在なさげな顔でステージの脇で備えながらもカメラに目を向けるとニヤッと挑発的な顔を見せ、神妙にアコギを手に取ってシリアスに歌ったかと思いきや間奏の最中にピョンピョンと椅子の上で飛び跳ねる。同時に、そういった振る舞いがどうステージに映え、どうカメラが捉え、ファンが眼差すのかをおそらくある程度認識している。客観と主観が混じり、道化とヒーローを同時に宿すような姿から単に目が離せない。リアムギャラガーとか、ミックジャガーとか、フレディマーキュリーを知らない自分にとってはああいうロックスター然とした人物と同時代を共にすることは非常にワクワクしつつもスリリングで、良くも悪くも感情や興味を持っていかれる。

 開演前、欧米ツアーと比べて過度なセットが削がれたステージには、マシュー・ヒーリーの周辺にだけ椅子やライトやお酒が置かれていた。単純に、ああ特別なんだなと思ったと同時に、マシュー・ヒーリーにスポットライトが当たるし、観客と彼の距離感がライブの印象を作り上げるのだと予感させられた。

セットリスト

Oh Caroline(solo)
I Couldn't Be More in Love(solo)
When We Are Together
Looking for Somebody (to Love)
Happiness
UGH!
Oh Caroline
Me & You Together Song
Medicine
If You're Too Shy (Let Me Know)
I'm in Love With You
fallingforyou
About You

Robbers
Somebody Else
It's Not Living (If It's Not With You)
Sincerity Is Scary
Paris
Chocolate
Guys(Shortened; Matty solo acoustic)
I Always Wanna Die (Sometimes)
Love It If We Made It
The Sound
Sex
Give Yourself a Try

序盤は「A Theatrical Performance Of An Intimate Moment」と題されたように彼の機微を丁寧に5thアルバムの楽曲に載せ、まるでモダンな芸術ホールの外装のように均整が取れていた。はっちゃけた様子を演じているような「Looking For somebody(to Love)」、80'sの高揚感をモダンなサウンドに昇華した「Happiness」、「I'm in love With You」もサマソニの演奏に近い、大衆の歓声を一気に引き受けるロックスター然としたそれで、盤石さと同時にステージとこちら側に一定のラインが引かれていた。特に「Medicine」「About You」における4本のギターとシンセサイザーの浮遊感が混じり合い、海や大地といった超然とした存在と演奏者のインナーワールドが同時にステージに浮き上がるまさに「Theatrical」なそれであった。

席が結構変な角度だった、というのも原因なのだろうが、もう1つのテーマの「Initimate」を私自身が体感できたのはマシューヒーリー自身が内面を曝け出し、私小説的なストーリーテリングとロックミュージックもブラックミュージックも時代性も肉体も電脳も混ぜ込んだ3rd「A Brief Inquiry into Online Relationships」からの曲が織り込まれた後半戦から、だったように記憶している。

単純に言うと、めちゃくちゃ踊れた。劇場型のステージングを繰り広げた前半から、後半になり、客席とステージの境目が曖昧になり、ただ快楽だけが充満していた。ロックバンドによるダンスへの誘いの最上級の形だった。''踊れるロック''というと例えば「バックトゥザフューチャー」のダンスシーンであったり、Arctic Monkeysの「Dance」という言葉が織り込まれた数曲だったり、フランツ・フェルディナンドやTwenty One Pilotsといった欧米のインディーロックが思い浮かぶ。ただ、私にとっての「踊れるロック」は10年代中盤のロッキン系フェスブームの中で活躍していたバンドたちだ。その渦中にいた私は「まだまだ踊れる?」「踊れ 踊れ さぁさぁ踊れ」「踊ってない夜を知らない」という言葉と共に体を揺らし、Suchmosがシーンに導入したブラックミュージック由来のノリも含め一種「踊る」という命題のもと音楽が流れていたフシがある。ライブを通して音楽を楽しむことがレジャー感覚で親しまれるようになり、演者と観客のコミュニケーションの一つの結実として「踊る」ことが持て囃された。

だから、今回のThe 1975のライブはそんな「あの頃」の「踊る」というロックバンドのライブの楽しみ方を思い出し、かなりセンチメンタルな気分になったし、振り返るとバンドサウンドで踊るというスタイルの到達点だった。「It's Not Living (If It's Not With You)」や「Chocolate」ではもたつきながらもジャストに鳴るドラム、シンコパーションや休符を意識した引き算のプレイで支えるベース、それに合わせたループするギターフレーズ、というバンドの黄金のバランスで自然と体が動いていたし、「Sincerity Is Scary」ではレイドバックするピアノとクオンタイズされていないかのように進むビートが隙間のある、清涼感漂うバンドアンサンブルが成り立っていた。そこに変幻自在にゆらゆらしながらステージを飛び回るマシューヒーリーが観客にノリを伝え、ノリを共有することでステージが「Theatrical」なものから「Initimate」なそれへと変容していった。

サマーソニック2022のステージでも印象的だった「Love It If We Made It」と「I Always Wanna Die(Sometimes)」は間に「Guys」が挟まれ、より「Intimate」な、親密で心象風景をくっきり見せてくれるようなものだった。始まる前はマシューヒーリーのPodcastの発言を聴いて煮え切らない思いを抱いたが、少なくともこの曲を披露している彼はステージの上で観客に対して誠実だった。それに応えるオーディエンスの合唱も「踊る」ことを経て生まれたステージと観客の親密さを体現していた。昔の海外のフェスで観客が大合唱する姿を美しいなと思ったものだけど、この日のそれは勝るとも劣らないものだった。

電車の中や学校の中で急に踊り出すと変な目で見られるし、金切り声や悲鳴を上げると会話が止まる。そんな日常の中で一種何をしても良い所の1つが音楽がなっているライブ会場やクラブだ。スーツを着てもいいしお洒落をしても良いし、グッズを羽織っても興奮して脱いでもなんとなく許される。ライブ会場は日常の中で他人への許容度が最高まで上がり、というかステージに夢中になり観客各々が各々へ無関心になるからこそ価値がある。ラスト2曲の「Sex」「Give Yourself A Try」でthe 1975の挑発的な演奏に対して回りの目を憚ること無く、「踊る」という形で、ノリノリで応える我々はその居場所のありがたみを最大限受け取っていたと思う。そういう意味で「At Thier very best」でありながら観客にとっても「At Our very best」でもあったんじゃないかと。そして洋楽不振と言われる時代にこんなに人を集めるバンドの頼もしさ。また日本に来て、その時は「Part of the Band」を演奏してほしいです。


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