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Arctic Monkeys 個人的アルバムランキング

Arctic Monkeysについての雑感

2018年に発表された「Tranquility Base Hotel & Casino」から約4年、待望のArctic Monkeysの新作が発売されます。ありがたいことにBeatink社主催の世界最速視聴イベントに参加することも叶い、リリースに向けてかなりテンションが上がっています。

「個人的アルバムランキング」ということでアクモンに対する雑感から。私が海外の音楽を聴き始めた頃は「AM」を出した後で、図書館やTSUTAYAで全部のアルバムを借りウォークマンに入れていた訳ですが、性急な1stや2ndだけが8MBの音楽プレイヤーのスタメンに残り他のアルバムはあまり聞き返す機会はありませんでした。2018年に「Tranquility Base Hotel & Casino」を聴いた際も「音が良い」「声が良い」「渋い」とはっきりした感想を持たないままに気付いたら聞き返すことも無くなりました。

そこから数年経ち、趣向の方向性は変わらないとはいえ音楽のストライクゾーンが広がり始めている近頃、Arctic Monkeysが新譜を出すというニュースが届いた。間もなく発表された「There’d Better Be a Mirrorball」はムンムンとしたアレックスの声の色気とふくよかなハムバッカーギターのトーンの芳醇さが聞けば聞くほど鼻腔から脳天を抜けていくような気さえする曲で、頭から離れず、彼らへの認識を改める必要があると確信した。2ndばっかり聞くのは辞めにしよう。

「若気の至りが過ぎ、権威化し、気付いたら自分たちの好きなことをやっている」。青さが薄れビンテージの香りが漂うArctic Monkeysのディスコグラフィーを振り返るとこう言葉にするのがストレートだろう。1人の人間の成長や成熟であり、ある音楽家集団が移り変わるトレンドに対してどう生きてきたのかの足跡でもある。

彼らのアルバムに共通している要素は「情けなさ」だ。素敵な「あの娘」から目が離せなかったり、友人に対して見栄を張ってしまったり、クラブでちょっとカッコつけて声を掛けてしまったり、一種化石のようなものではあるがそんな虚勢や強がりがサウンドに反映されている。1stや2ndは速くキメの多い演奏を武器として「冴えないけどカッコいいヤツ」を演じきる。肥大化したバンド自身を武骨で壮大な「ロックの権化」として飾り上げようとした(結果成功した)「AM」時点で当時27歳であったことを考えるとやはり自分達の若さゆえの脆さや愚かさを繕うような側面があったといえる。だからこそアルバムに挟まれる「歌もの」にはアレックスの内面を覗くような密やかさと背徳感が見え隠れするし、どうしようもない色気が生じるのだ。

そしてもう1つがダンスフロアへの視点である。初期は「Dancing Floor」「Dancing Shoes」、中期には「Dance Little Liar」、そして「There’d Better Be a Mirrorball」における「Mirrorball」と彼らのタイトルだけとっても「ダンスフロア」、すなわち「踊る」ことがテーマの1つとして存在していることが伺える。虚勢を張る「私」が無心に踊り素に戻り解放させる場所。初期に多用された4つ打ちも近年の腰から揺れてしまうような重心の低いバンドサウンドもダンスフロアや踊ることへのたゆまぬ希求から来るものだ。またビートルズ以前の「ロック&ロール」にダンスが付き物だったことを踏まえるとその頃への懐古が近年のバンドのテーマとして頭にあるのかもな、と推測する。


アルバムランキング

「色気」「バンドサウンド」「ギターロック(としての快楽)」「ボーカリセーション」「(アルバムとしての)完成度」という各基準5点満点で点数を付けました。何様?


6位「Humbug」

1st、2ndの早さや若さは削がれ、よりソリッドでちょっとダークな雰囲気を手にした3rdアルバム。スネアの連打とマイナーなアルペジオ、後半に挟まれる空間系のエフェクトで加工されたギターのトーンからサイケデリックな空気を感じる「Crying Lightning」で幕を開ける本作は続くM2「Criyng Lightning」、M3 「Dangerous Animal」でも同様の抑えられたテンポと高揚感と「泣き」の間で酔うようなギターソロをふんだんに聞かせながら進む。後に「AM」でトライするスタジアムロックへの萌芽は感じるが、それが1st、2ndの歩みのすぐ先であるこの段階で効果的に鳴りきっているとは感じにくい。しかしアレックスのボーカルの成熟は進んでいて、特にM4「Secret Door」の色気を隠しきれないむせ返るような歌声は隠れ家バーで聴くような密やかさを備えている。とはいえM9「Pretty Visitors」やM5「Potion Approaching」のようなリズム隊がバンドを引っ張りギターが刀のようにキレ良くサウンドを刻む曲に輝きを見出してしまう。彼らはこのアルバムを出した当時23歳で、「老連さを醸したい」と望む若さ故の脆さと倒錯がこのアルバムに湛えている。

色気 3
バンドサウンド 3
ギターロック 3
ボーカリゼーション 4
完成度 3
16


 5位「Tranquility Base Hotel & Casino」

この作品にはキャッチーさやスタジアムで全員が歌い上げるようなキラーチューンが殆どないと言って良いだろう。性急なでィストーションギターの音は聞こえない。1st、2ndの音を求めている人、つまり私の、初めての「リアルタイムのアクモン」として物足りなかったのは認める。ただそれは「アクモンが自らの足跡を無かったことにした訳ではない」ことを理解していなかったからだ。培ってきたグルーブは引き算という方式で作り上げられているし、耳を傾ければ驚くほど効果的にギターが楽曲に色を添えている。そしてあなたは「今までのアクモン」をこのアルバムの中に探しこのアルバムを聞き返す度にこのアルバムの持つ白でも黄色でも黒でもない揺動と遠くで囁くように鳴るビンテージの鍵盤楽器の音色に誘われ、このアルバムの虜になっていく。気がつけばこのホテルにチェックインする度に実家のような居心地の良さを覚えることだろう。M8「Science Fiction」のダイナミックさとミニマムさが融合したようなサウンドデザインは最新作に引き継がれる気がします。

色気 5
バンドサウンド 2
ギターロック 1
ボーカリゼーション 5
完成度 4
 17


4位「Whatever People Say I Am Thats What I Am Not」

「早くて音がデカくてメロディーが頭から離れないしタイトルは長いし何より超かっこいい!」と初めて最寄りのTSUTAYAから家に帰ってきてこの作品を再生した日のことを鮮明に覚えている。今聞いても感想は同じである。ギターリフ含めて歌えてしまうような取っ付きやすさは目を見張るものがある。RadioheadとRadioheadフォロワーが陰鬱さと美しさでイギリスを染めていた頃に弱冠19歳の若者がこんなアルバムを出したらティーンネイジャー達が正気でいられるはずはない。ただ、ストレートな音楽では無いとも思う。M1「The View From The Afternoon」におけるギターの掛け合いや緩急の付け方からはインテリジェンスを感じるし、M3「Fake Tales Of San Francisco」はその寓話的な歌詞と裏切りに裏切りを重ねるような構成が捻くれ者としてのUKロックミュージシャンの系譜に位置することを伺わせる。とはいえ「Kick It Out!」というコーラスを要求したり、M4「Dancing Shoes」の軽快なタム回しドラムパターンで観客をノらざるを得ない感情に突き上げたりとやはり一聴しただけでわかる要素がこのアルバムの魅力の大半を占める。ハイライトはM12「When The Sun Goes Down」で、シンガロング→ギターのブラッシングで溜め→キャッチーすぎるメインリフという常に脳内に麻薬物質が蓄積される構成は発明。全体的にやや手癖すぎるようなソングライティングではあるものの、当時の英国内外のガレージロックとの相互影響をパッケージングした、あるいはギターロックにまた一つ発明を起こした、といった側面はどこまで称賛されてもやり過ぎにはならないだろう。この時点で「A Certain Romance」みたいな曲を書けてしまうことからはバンドとしての底知れなさを感じざるを得ない。

色気 2
バンドサウンド 4
ギターロック 5
ボーカリゼーション 3
完成度 4
計 18


3位「AM」

誰もが認める2010年代の傑作であり、現在もSpotifyのアルバムチャートにランクインし、現在もCDやレコードが売れ続けているArctic Monkeysの代表作。2013年に発売された訳だが、その前年、ロンドンで開催されたオリンピックにおいてThe Beatles「Come Together」を演奏した。当時仮面ライダーの主題歌と父の車で流れているBeatlesしか音楽を知らなかった私は(ビートルズってもういないよな...)と少し疑問を持ちながら鑑賞した記憶がある。これは思い出話をしたい訳ではない。つまり「イギリスから世界に向けたロックバンドの頂上」として彼らはスタジアムに立ったのである。そして改めて「AM」において太文字のロックを鳴らした。シンプルでスローながらもそれが荘厳さと余裕に繋がる「Do I Wanna Know?」、少しテンポを上げ1stや2ndのごとき歪んだギターがダイナミクスたっぷりに鳴る「R U Mine?」とロック大国イギリスの血筋を噛み締めるようにアルバムは展開する。M4「Arabella」の序盤に音数の少なさをドラムとボーカルの盤石さだけで乗りこなしたり、「I Want It All」でのギターのリフのシンプルさだったりと全編に渡って王者の風格が漂っている。B面にあたる「No.1 Party Anthem」からは次作に繋がる要素が見え隠れするがM10「Snap Out Of It」の心臓のように刻まれるバスドラムなど初めてロックミュージックを聴いた時のドキドキとした青さを多くの人に与えうることは想像に難くない。一方でこのアルバムに漂う王者の風格はあくまでロックミュージックの歴史を参照したものでしかなく、あくまでロックの権威化を推し進めただけとも言えてしまうだろう。2010年代中盤に差し掛かるタイミングでロックミュージックの集大成のような「AM」が出てしまったことこそ「ロック不振」の一因かもしれない。

色気 4
バンドサウンド 4
ギターロック 4
ボーカリゼーション 4
完成度 4
計 20


2位「My Favorite Worst Nightmare」

M1「Brianstorm」から解る事は1stからフィジカル面でもソングライティングの面でもアクモンは明らかな進化を遂げている、という単純なことだ。キメの応酬はギリギリコメディにならないというか、とにかく「ギターとギターのフレーズ組み合わせでどれだけ格好が付くか」という競技に挑戦しているようなストイックさ。勿論それを支える堅実なリズム隊こそ真髄なのは言わずがなだ。冗長にならずに、かつ間髪を開けずに洒脱さを醸すポップナンバーM2「Teddy Picker」、BPMの速さでアルバム序盤のアクセル的役割を果たすM3「D is for Dangerous」が連なる。このバンドは当時、完全に自身の才覚に気づいていて、それでいて客観視と自己プロデュースも欠かさず、かつ肉体や演奏もそれに追随し、「最高のバンド」を満たす全ての要素が全ての要素を追い越し合っているみたいな、そういったピークを迎えていたのだろう。裏拍で取るリズムからは余裕さえ感じるM5「Fluorescent Adolescent」や後に連なるドリーミーで深みのあるボーカルを堪能できるM6「Only Ones Who Know」などスローな曲が中盤に配置され、序盤との対比でアルバム全体がしっかりとしたストーリーになっている感覚を受ける。物凄く「イギリス」を感じるのがM8「This House is a Circus」で、映画007の緊張みたいなのがリフに表出している。M11はマネスキンにも繋がる(ように聞こえる)縦ノリを促す佳曲だし、M12「505」はライブには欠かせないクロージングナンバー。アクモンのディスコグラフィーの中でも一つの物語としての「アルバム」の最高到達点を叩き出しているのが「Favorite Worst Night Mare」だ。

色気 3
バンドサウンド 4
ギターロック 5
ボーカリゼーション 3
完成度 5
20


1位「SUCK IT AND SEE」

「Humbug」からは過渡期ならではの中途半端な印象を受けたが、「SUCK IT AND SEE」からは過渡期だからこその初期と後期の良さをどちらも受け取った。初期の魅力がギターロックとしての分かりやすさと楽器同士、ボーカルとコーラスの掛け合い、そして少し捻くれたインテリジェンスにあるならばM3「Brick By Brick」M6「Library Pictures」が備えているし、「AM」の不敵なダイナミックさはM5「Don't Sit Down Cause I've Move d Your Chair」に見出せる。オープニングトラック「She's Thunderstorm」からしてむせ返るような色香を放っている。言ってしまえばアクモンのいい所欲張りセットだ。
何よりタイトルが良い。やや挑発的な「へぇ、よく観てみなよ」といった言い回しの「SUCK IT AND SEE」は最初に述べたとおりの「脆さを虚勢でかっこよく見せる情けなさ」を感じるし、ちょっと情けないけど鳴らしている音はキレキレというギャップこそが魅力だ。伸びやかなギターソロが心地良いM11「Suck It And See」の中に「Be cruel to me cause I'm a fool for you」という一節がある。すなわち「俺をひどく扱ってくれ、俺は君に夢中だからさ」という意味なのだろう。これはアレックスからどこかの女性へ向けた言葉でありながらリスナーからアクモンに向けた言葉でもある。軽快さとノスタルジアが絡み合うミドルテンポのポップチューン「That's Where You're Wrong」で終わるこの作品はArctic Monkeyらしさに満ち溢れる極上の空間である。

色気 4
バンドサウンド 5
ギターロック 3
ボーカリゼーション 4
完成度 5
計 21


という訳で1位は「Suck It And See」となりました。こうやって丁寧にアルバムをバーっと聞くと新譜までの流れがスッキリするので他のアーティストでも積極的に全部聞くやつはやっていきたいです。

アルバムは関係ないんですけど、やっぱりこのライブ映像が1番だなというのを貼って終わりにします。日本に来てほしい。


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