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傷ついた者同士が安らぎに至る物語『マイ・ディ・ミスター』ドラマ感想

Netflixなどで見られる韓国ドラマ『マイ・ディア・ミスター』
はじめに、私の記事力が稚拙なこともあり、このドラマの面白さは見ないと分からないと思います。
だけど、このドラマが大変面白く、まだ見ていない人は興味を持って欲しい、見た人とは一緒に面白さを共有したいと思い記事にしました。

ざっくりとあらすじを述べると、ある企業の契約社員として働く若い女性がその会社の中年男性である部長に心惹かれていく物語です。
日本でも疲れきった社会人男性のもとに女子高生やら女子大生やらが現れることで生活が一変して前向きになれる系の物語があります、これもそんな感じの話だと思っていました。
骨格自体は同じかもしれませんが、肉付けされているものは緻密で濃厚、そしてなにより美しい。
男女の恋愛というテーマで描かれていますが、崎陽軒のシューマイ弁当のおかずに例えるとシウマイがこのドラマの恋愛部分です。それで鮪が職場関係、唐揚げが兄弟関係、玉子焼きが親子関係です、つまり何が言いたいかっていうと全部のテーマがメインを張れるくらいどの角度から見ても面白いです。
韓国ヒューマンドラマの……いえ、ヒューマンドラマの最高到達点だと思います。
全16話、1話70分くらいかと思いきや、段々回が進むごとに制作者が「まあ、ちょっとずつ尺増やしてもバレないだろう(笑)」といつの間にか80分くらいになっているドラマで見るのは根性が必要ですが、見て後悔は絶対ないと思います。

あらすじ
『マイ・ディア・ミスター』公式HPより


 建設会社で働くドンフン(イ・ソンギュン)に、ある日、差出人不明の5000万ウォンの商品券が届く。直前に母から、無職の長男のために、家を売って食堂をやらせたいと相談されたドンフンは、それを受け取ってしまう。翌日、ドンフンは匿名の告発を受けた監査部から調査を受けることに。しかし、商品券は彼の机からこつ然と消えており、ドンフンは答えに窮する。すると、突如商品券がビルのゴミ置き場から見つかる。ドンフンは「5000万の商品券を捨てた男」として社内で英雄扱いされることに。商品券を捨てたのは契約社員のイ・ジアン(IU/アイユー)だと知ったドンフンは、自分が捨てたことにしてほしいと彼女に頼む。すると、ジアンから交換条件として1ヶ月間食事をおごってほしいと言われてしまう。実は、ジアンは、ドンフンの妻ユニ(イ・ジア)と不倫関係にある社長ト・ジュニョン(キム・ヨンミン)からお金をもらうため、ドンフンを陥れようとしていた。そうとは知らないドンフンは、ジアンに関わるうちに彼女が多額の借金を抱えていることや、孤独な人生を歩んできたことを知り、少しずつジアンを助けるようになる。そんなドンフンの優しさに触れるたびに、ジアンの心は少しずつ揺らぎはじめ…。

http://mydearmister.jp/

あらすじが壮絶ですよね、主人公さん賄賂受け取って告発されたり、妻が会社の社長と不倫されたり、さらには契約社員に嵌められそうで泥沼展開を予想させるドラマ滅多にありません。
だけど日本のHPに載っている写真を見ると↓

こんな写真のシーンはは一つもなかったよ!!
是非見て欲しいですが見る前は一旦このイメージを消した方が良いです。でも、見た後はこの画像より尊い関係が生まれています。
観た後はなんと癒されるドラマなんだ、と涙ながらに思いますがそこに至るまでのストーリーはあらすじの通り泥沼で、紆余曲折ありすぎて、よくこんなラストに出来たなと感心してしまいます。
はっきり言うと脚本がおかしい。(誉め言葉)


〈感想を語る上での知識入れ〉以下ネタバレ注意

主人公ドンフンに商品券を贈って、陥れようとしたのは会社の社長であるト社長です。ト社長はドンフンから妻を奪い、さらには会社から追い出そうとして会社内で起きている派閥争いに乗じて賄賂の罪を被らせるという奸計をめぐらします。
賄賂作戦が失敗に終わると、ト社長はドンフンの妻と不倫していることをある出来事からイ・ジアンに気づかれます。
ト社長はイ・ジアンの詮索能力と機転のうまさに感心して成功時の報酬を約束し、ドンフンの弱みを探るため近づくように命じます。
するとイ・ジアンはこっそりドンフンのスマホに盗聴アプリを入れて私生活を監視します。
しかし、なんと彼の生活は清廉潔白、なにも突くところがありません。毎日勤勉に働き、仕事が終わると部下やかつての同級生と馴染みの居酒屋で陰口一つ叩かず、誰かの話を黙って聞く優しい男でした。
そんなドンフンにも悩みがありました、それは社長が大学の後輩という気まずい職場関係でまわりは役員に選ばれている中、出世できません、さらには妻が最近冷たいことや兄弟の仕事が心配だったりと心配事が積みあがるばかりで周囲から信頼されているドンフンにもなかなか打ち明けられない悩みがあることをイ・ジアンは盗聴することで知ります。
一方、イ・ジアンは過去に両親が借金をしていたことにより借金取りに暴力を受けていました。そんな時彼女は家族を守るため借金取りを殺します。正当防衛ということで無罪でしたが、それから人を信頼できず孤立していき、それから両親を失いその借金を相続してしまったこともあり、借金返済と耳の聞こえない祖母と弟を養うため昼は契約社員として、夜は皿洗いとしてひたすら働いて、遊ぶ暇もお金もありません。
子どものころから苦労続きで人に言えない悩みと秘密を抱えるイ・ジアンは同じく孤独を感じているドンフンに契約社員と会社の部長という立場が違えど惹かれていきます。

〈大好きな回というより、ドンフンとい怒れる男の話〉
ドンフンとイ・ジアンが直接話すシーンはすべて印象的ですが数的には多くありません。
その代わりに盗聴を通してイ・ジアンはドンフンのことを知っていきます。回重ねることで少しずつイ・ジアンがドンフンに対して正しい道へ導いてくれる上司でもあり父でもあり、そして恋心が含んだ憧れが芽生えていく様子が面白いです。

面白いのは4話です、ぶっちゃけ言うとそれまでは耐えて見てました。
ドンフンは三兄弟の真ん中で、兄と弟は清掃業をして地道に働いています。ある日、清掃をしていたビルのオーナーにいいがかりをつけられ、する必要のない謝罪をさせられます。その現場を実の母にも見られて恥ずかしい思いをしますが、兄と弟は仕事を続けるために泣き寝入りをするしかありません。
しかし、ドンフンは怒り狂い立ち上がりました。オーナーのいる事務所に現れ、兄弟に謝れと要求します。オーナーは無論拒否をしますが、ドンフンは建設会社で働いている知識を活用して「オーナーが管理するビルはすべて建築基準に反している、お前はそれに気がついているけど何もしていない、その事実を知られたくなきゃ自分が用意した果物が入った籠を持って兄弟に謝りに行け」と脅します。

かっけー!!!!
温厚で悪口も言わない、無表情が多い彼は兄弟のために怒れる男だったのです。イ・ジアンもいつも仏頂面ですがこの出来事を盗聴していた彼女ははじめて驚いた表情を見せます、そして瞳はいつもより少し輝いていました。

7話も良いんですよ~
7話はイ・ジアンがドンフンの弱みを握る目的で2人きりで食事をしていく内に部長の言葉の温かさを感じていました、それと同時に自分がト社長とドンフンの奥さんが不倫をしていることを知っているだけに何も知らないドンフンのことを可哀そうに思い始めます。
そこでイ・ジアンはト社長のスパイは続けながらも、社長とドンフン妻の関係を終わりにさせようと彼女はドンフンの妻に「ト社長はあなたに本気ではない」と告げます。
そんな話が動いた7話のラスト、イ・ジアンがドンフンの妻と接触している時間、いつものようにドンフンはイ・ジアンといつも食事している場所で待っています。
「いつもいる子は今日は来ていないのか?」
ドンフンもイ・ジアンを気にしていたのでした。彼女はその言葉も盗聴していたため、急いでお店に向かいドンフンが諦めて帰ろうとしたところで間に合ったのです。

ドンフンが帰ってしまうまでになんとかお店に着こうと走るイ・ジアンの姿は恋をする少女そのもので、ここでかかる音楽がまた素晴らしくて孤独を感じていた2人が心で求め合っている心情が溢れ出ています。このドラマ、音楽が素晴らしく名シーンと音楽がリンクして記憶に刻まれています。
最近亡くなられた作曲家の坂本龍一さんもドラマのストーリーと曲のファンでラジオでも挿入曲を流していたみたいです。
盗聴という特殊な設定を上手く使っていますが、それを悪い事にだけ使うのではなく感動に使っていることに感心して、この回でこのドラマに出会ってよかったと思えました。

そして9話、この回は瞬きするのを忘れる程面白い回でした。
食事をすることで2人の心の距離は近づいていきますが、社内での立場は役員候補の部長といくらでも代わりがきく契約社員です、同時に社内では2人の仲が良すぎると好奇の目が集められます。
信頼する部下からドンフンに彼女ばかり贔屓にしないで欲しいと頼まれ、少しだけ距離を置くことを考えるとその会話を盗聴していたイ・ジアンは自分から距離を取るようになります。
しかし、ドンフンはイ・ジアンのいままでの言動やキラキラしている同じ世代の女性が纏う雰囲気とは一切違っていることを気にしていて、ついに彼女の過去を知っている人から話を聞きます。
イ・ジアンは今でも借金を背負い、男の借金取り家業を継いだ息子に日々暴力を受けていることを知ったドンフンは彼女に近づくのをやめようとするどころか、その借金取りに会い、俺が借金を返すと宣言するのです。
借金取りからイ・ジアンは俺の父を殺したと彼女の過去も明るみにされ、殴られますがドンフンは立ち上がり、こう言って殴り返します。

「家族を傷つけるやつは俺でも殺す」

いやあ、世界一かっこいい男じゃないっすか。
まじで、めっちゃかっこいいです。
震えました。
人のためなら際限なく怒れる男、パク・ドンフン。

この後、ドンフンがチンピラに殴られたと同級生や兄弟間で話題になり、ドンフンを殴ったやつは何処だと血眼になって町中で犯人を捜す兄弟や同級生がめっちゃドンフンを慕っているんだなと思えるシーンがあり、そこの流れも含めて完璧です。
ワンピースの頂上決戦決戦編でエースを救うために海軍本部に殴り込みをかける白ひげ海賊団を思い出しました。

〈まだまだ言いたいことはたくさんあるけどまとめ〉
もう、本当に面白くて、また見たいドラマ「マイ・ディア・ミスター」
今回はドンフンを中心に語っていましたが、今作のヒロイン、イ・ジアンやドンフンの兄弟も大好きです。
それに、終始イ・ジアンに執着している借金取りのグァンイルも憎らしい男ですが、イ・ジアンとの過去やラストの行動を見た視聴者は彼も誰かに救われて欲しかったのかなと思いますし、他にドンフンとイ・ジアンの本筋とは全く関係ないところで繰り広げられる弟の恋愛模様や、ドンフン達が通っている居酒屋のママの諦められない恋の話など、もうそれでドラマ一本作れるじゃんと思うくらいの重厚感のあるサイドストーリーも展開されており、このドラマの主役は舞台にもなっている『後渓(フゲ)』の人たちなんだと気づかされます。
ちなみに『後渓』という町は架空の町だそうで、驚きました。

このドラマに出てくる大人達は昼は真面目に働き、夜は仲間と韓国料理を食べながらチャミスルを交わす、一見充実していてそうでも、楽しいことだけじゃなくて孤独に感じることもあって、何か特別なものじゃなく、安心できるものを探していても、泣きたいような辛いめにあうこともある。間違ったことをした事や、思い出したくもない捨てたい過去もある。
それでも先にすすまなきゃいけない、ちゃんと生きていけばその途中できっと誰かが自分のことを見てくれているし、気にかけてくれる、元に戻らない傷があっても、このドラマを見て傷が癒えた時にそのかさぶたもいいじゃん、と言える人生を歩みたいと思いました。








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