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好奇心の罪と罰について 映画『岸辺露伴ルーヴルへ行く』感想

漫画原作の作品が実写化することで、作品が好きすぎるあまり、もしくは実写化における解釈違いなどでファンが辛い思いした経験はあるでしょう。
しかし、ジョジョの奇妙な冒険のスピンオフ作品、『岸辺露伴は動かない』は実写化された作品の中で有数の原作ファンからも支持を受け、そしてもちろん原作を知らない方でも楽しめる作品です。
それが今回映画にまでなりました。

ごく普通の街に都市伝説感覚で囁かれている怪奇現象に、人気漫画家である岸辺露伴が取材と称してその謎を解き明かしていく先に、常識の範疇ではありえない出来事や奇人、変人ともいえる人が現れる。そしてその先に待ち受ける真実には、現代の科学や理論では解明できない現象と繋がっている不気味さがあるホラーミステリー作品です。
この作品の雰囲気は岸辺露伴が創作をする上で大事にしている、どんな怪奇で不思議な出来事があるフィクションにもその根底にはリアリティが必要という創作論の元で制作されており、それが出来た作品はどれだけ人を惹きつけるかが分かります。

この『岸辺露伴ルーヴルへ行く』は原作の中で特に人気の話でありますが、タイトルの通りフランスパリに構えるルーヴル美術館が事件の舞台ともなっていることもあり、日本でセットを用意することも出来るでしょうが、先ほど述べたこの作品の雰囲気という名の作品の縛りの通りリアリティが必要としているため実写化するにはそこに行かなければなりません。

今回『岸辺露伴ルーヴルへ行く』の映画は実際にルーヴル美術館で撮影が行われ、(ルーヴル美術館の撮影許可が下りるのってかなり難しいらしいのでこれが出来るって凄い事ですね)実際のルーヴル美術館と高橋一生さん演じる岸辺露伴とのマリアージュが素晴らしく、実写だけど幻想を見ているような気分でした。
巨大なスクリーンに映る美しい美術館と、お馴染みのキャラクター、そして日本のみならずフランスパリをも巻き込むミステリー、まさに映画化するに相応しい作品でした。
今回岸辺露伴が調査するのはこの世で最も黒く、最も邪悪な絵画のオリジナルを探しにパリまで訪れます。絵画を見た人だけに見える幻覚で死に至る謎と誰がその絵画を描いたのか、なぜ描かれたのか。その真相の全貌が明らかになると岸辺露伴のルーツまでが見えてくる壮大な話でドラマよりもヒューマンドラマ要素が強く様々なドラマやアニメの脚本を手がけている小林靖子さんが脚本をしていることもあり現代でのミステリーパートと過去でのヒューマンドラマのバランスが見事で感想としても大満足。

もともと短編集漫画が原作なので映画だけ見ても理解可能で楽しめますが、ドラマを見ておいた方が個人的にはおすすめです、Amazonprimeでも配信されています。余計な話で杞憂かもしれませんがとある話で最近ニュースで話題の方が出ていて、もしかしたら配信停止になる可能性があるのではやめに見ることを勧めます。

そして、今回私が取り上げたいのは『この世で最も黒く、邪悪な絵を描いた人』と岸辺露伴という2人の創作者の話です。当然、結論を知らないとネタバレになりますし、説明を省くところもあるので以下読む方はそれを理解した上でスクロールしてください。ちなみに原作は『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのファンで読んでますが動かないシリーズは読んでません!

〈以下ネタバレ注意〉

『この世で最も黒く、邪悪な絵を描いた人』を書いたのは山村仁左衛門という人で、250年前の18世紀にいた架空の人物です。
日本で言うと江戸時代で、当時の将軍の側用人田沼意次が幕政改革をしてる時代で情勢的にはあまりよくなかった時代でもあります。(あまりここは関係ないです)
山村仁左衛門は妻の長い黒髪に惹かれ、その髪の毛を絵として表現できる黒色を探していました。
吉良吉影の手フェチといい、フェチズムが動機になっているのも漫画を描いた荒木飛呂彦先生らしくていいですよね。
仁左衛門は何千年前からある御神木から出る樹液が妻の黒髪を表現できる唯一無二の色材として、幕府の意に背いたり御神木を傷つけるというタブーを犯して木を斧で切って樹液を集めてまで絵を完成させました。

絵を完成させる代償として自分と妻を犠牲にした上、完成された絵はその後見た人の過去の罪を呼び起こし罰を与える邪悪な絵として残り続けます。
妻の髪の毛を表現した絵を描きたいと言う創作好奇心が自分の罪と罰になるだけでなく見る人にも不幸を与えることになってしまうのです。
これは岸辺露伴の持つ好奇心とその先の結果によく似ています。漫画やドラマでもありました、背中を見られたくない人の背中を見てしまうと見られた人は死に、見た人はその呪い(漫画はスタンドですが)にかかってしまう回では岸辺露伴は好奇心の元で背中を見るためにあの手この手で策を巡らせ、その結果岸辺露伴が呪いにかかり命の危機に陥ってしまいます。
その他にも怪奇現象というほとんどの人が信じない、または気にもとめないことを岸辺露伴は創作のネタになるという動機で足を突っ込むので彼の好奇心は人並み外れています。

そして、好奇心が危険やタブーを上回った時にとんでもないことを生み出せるのは創作者だけではありません。
山村仁左衛門は架空のキャラクターですが、実は江戸時代に幕府のルールを破りその先の誰も見たことがない何かを求め、変えようとした人が実在したのです。
有名なのが江戸時代後期で明治維新のきっかけを作ったと言われる思想家の吉田松陰です。彼は東洋の兵法を学びながら当時鎖国下の日本の外で起きている世界の激動から西洋の兵法や政治、文化も取り入れるべきだと主張します。そして、そのために世界を知ろうとペリー来航した際には連絡を試みてみたり、乗り込もうとしたりととんでもないことをします。当然、江戸幕府にとっては鎖国を保ち、徳川政権を200年以上続けた幕府を危険にさらす反逆者であり、吉田松陰は捕らえられ、その後幕府重鎮の暗殺に関わったとして死刑となりますが、その思想や行動は弟子や同士に影響を与えて明治維新という大きな波に変えていき、彼がいなければ徳川倒幕という結果にならなかったとさえ言われています。

そして、もう一人この方は去年岡山旅行に行った際に知りましたが浮田幸吉という男です。浮田幸吉は実は世界で一番最初に空を飛んだ人とさえ言われており、世界的に有名で飛行機を開発したライト兄弟が空を飛んだ100年以上前に空を飛んでいます。
布や紙を使って障子や襖を作る彼の職業である表具師の技術を活用して、鳩を元にどうしたら人は空を飛べるかという事を考え、紙と布で鳥の翼にみたてた今でいうところのグライダーのような飛行器具を発明すると岡山にかかる橋から空を飛ぶ実験を始めました。
なんとも可笑しくて、嘘みたいな話ですが、一応記録に残っており風にのって空を10秒間ほど飛行したとされ、当時そこにいた住民を驚かせたという記録まで残っています。
しかし、それが原因で岡山の藩士に捕らえられてしまいます、人を乗せる飛行装置を作ることは人のためになると思いますが、与えられた仕事以外のことを勝手に始め、人を驚かせて迷惑をかけたことが罪だと幕府はみなして死罪は免れましたが所領を没収され岡山から追い出される(当時は備前)という罰を受けます。
彼はその後静岡(当時は駿河)に移り住みますが、その地でも夢を捨てきれず新しい飛行装置を作ったりしますがそこでもその行いがバレてしまい追い出されたりします。ちなみに彼は91歳まで生きたと記録されています。当時としてはとっても長生き。
彼はどんな影響を与えたかは分かりませんが(笑)どんな時代でも面白い人間はいるんだなと思います。個人的に大河ドラマでやってほしい歴史上の人物ナンバーワンです。

現実での吉田松陰や浮田幸吉、作品のキャラクターでいう岸辺露伴や山村仁左衛門は何度やってはいけないことと分かっていても好奇心が勝ってしまうことで人並外れたことを行い、そのせいで様々な運命が待ち受けています。しかし、どんな危険やタブーよりも好奇心が勝った人こそが誰も見たことがない作品や発明、それだけでなく歴史を生み出せることが出来るのだなと話が大きく外れたかと思いますが『岸辺露伴ルーヴルへ行く』を観に行って思いました。






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