自己の崩落、混沌の境地

「君のことは僕が一番よく知ってるよ。」
隣でそう囁かれる。
「何で」
私が尋ねる。
「ずっと側にいたじゃないか。」
そういえばそうだったような気もしてくる。
「昔から鈍臭かったよね。ほら、体育祭とかさ。」
要らない話をしてくる。舌打ちをしてやめさせる。
「君にとっては辛い記憶か。君だけだもんね、1人だけ皆んなと動きがズレてたり、違うことをしていたのは。幼稚園生の頃だっけ。」
やめてくれ。何なんだよこいつ。
「そして小学生。毎日家に帰ってきた父親が休日だけに、一週間に一度に、となって言ったね。」
うるさい。
「君の鈍臭さは変わらない。いつも怒られたね。もしかしたら、発達障害とかだったんじゃないの?」
「お前いい加減にしろ。」
私がキレる。
「良いから聞きなって。中学生になったね。君はテストで絶望してたな。5教科で250点くらいしか取れてなかったよね。」
「中学2年生の頃だったかな?君は急に痩せた。1ヶ月で15kgくらい。病気だね。モチベーションでもついたのかな?急に勉強ができるようになったよね。」
そんなこともあった。
「中学3年生のとき、君は受験から逃げたね。精神的に病んでもいた。冬になると汗をかくだけで蕁麻疹が出るようになった。痒み止めで寝てばかりになった。たいして知らない中途半端な偏差値の高校に行った。君は努力が嫌いだった。」
やめて欲しい。
「高校に入って若干太ったね。突然勉強ができるようになったよね。模試の英語は学年トップどころか県内で150位、全国で8000位だったね。」
どうだ。私も偉くなっただろう。鼻が高い。
「でも君は薬物に手を出したね。合法の幻覚剤とかさ。何かを変えたかったのかい?何も変わらなかったね結局地続きの今が広がるだけさ。」
それが何だ。どうでも良い。
「君は何も変わってないよ。鈍臭くて心配性で、人と関わるのは苦手なんだ。友達と仲良くなっても、人の嫌な部分を見て、嫌になる。裏切られた気分になってる。そして思うのさ。今の自分は孤独だって。両親にすら疎まれている。君がいなくなれば両親は別れられるのに。」 
「それが何だよ。しょうがないだろうまれてきたんたから。」言い返す。
「今の君はどうだろう。模試で過去最高の点をとったね。でも期末テストの勉強は全くしてないな。そして孤独を感じている。SNSで寂しさを埋めようとした。寂しさは埋まったかな。食欲がなくなってきてる。急激に体重が減っていってるね。昼夜逆転がやめられないね。」
「お前は一体何なんだよ。」
声を振り絞って私が言う。
「君の頭にいる細胞の一つ。」
ああそうか。周囲には誰もいない。孤独だった。
我に帰る。もう訳がわからない。
ここにいたのは自分だけだった。
自分の拍動だけが響く暗闇。
私を照らすブルーライト。
虚弱になった体に一つ一つの細胞が暴れる。
きっとここにいるのは壊れた人間だけ。