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電車で出会った元校長だと言う女性

昼下がりの電車に乗って本を読んでいました。乗客は少なく、みんな間隔を大きく開けて座っています。ある駅で一人の高齢女性が乗ってきました。彼女は車内をきょろきょろと見回した後私のすぐ横に座りました。そして話しかけてきました。コロナ禍以降は電車で話しかけられることがほとんどなかったので最初はちょっと戸惑いました。

私は教育関連の本を読んでいました。それを見たからかどうかわかりませんがその人は「先生ですか?」と聞いてきました。「もう退職しました」と答えると彼女は「私も小学校の校長だったんですよ」と言いました。「教師(教員)だったんですよ」ではなく「校長だったんですよ」と言ったことに私はちょっとした違和感を持ちましたが、彼女はそのまま話しを続けました。子どもの頃から教師になりたかったこと、教師の仕事は自分にとって天職だったこと、やりがいのある仕事をしてきた自分は幸せであるなど堰を切ったように話しました。児童や保護者とも最高の関係を作れたと言い、いじめや不登校を出さなかったと誇らしげに言いました。

彼女は数年前に退職したそうですが、その際は再任用として続けてほしいと懇願されたと言います。自分も続けたかったけれど親の介護があったので泣く泣く断ったそうです。「その後もオファーはたくさんあるんですよ」と言うのを聞いて私の違和感はさらに強まりました。

彼女は教師としての自分の過去を誰かに話したかったのでしょうか。業績をほめてほしかったのでしょうか。話す相手はだれでもよかったのでしょうか。もしかしたら誰かとおしゃべりをしたかっただけかもしれません。でも、彼女の話が延々と続きそうだったので私は「ここで降りますから」と言って次の駅で車両を移動しました。冷たいように思いましたが私は「傾聴ボランティア」ではありません。

彼女がそのあと新たな聞き役を見つけたかどうか私にはわかりません。でも初対面の私に過去の業績を語る彼女に私は退職者の悲哀のようなものを感じました。



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