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94 学校の電話事情

初任のとき、座席が職員室のいちばん奥ですぐ横に電話がありました。職員室には計2台の電話が置かれ、もう一台は正面の教頭の机にありました。携帯電話はまだ一般化しておらず、固定電話の時代でした。電話は事務室や校長室もありましたが、教員にかかってくる電話は公的なものも私的なものも含めてほぼ職員室の2台が受けていました。

電話の横にいるので私は電話に応対することが多かったのですが、電話は様々なところからかかってきました。用件も多様です。朝は欠席連絡が多く、日中はバラエティに富んでいました。教育委員会や他の学校、保護者や業者のほか教師の家族からかかってくることもよくありました。今も思い出す電話がいくつかあります。

朝の欠席連絡は生徒の場合と教師の場合があります。生徒の欠席連絡は保護者がかけてきますが、教師の場合は本人がほとんどです。体調がすぐれず休む場合や、急用で年休をとるときなどです。年休を取る際は理由を言う必要はないのですが、たいていの人が理由を言います。「風邪をひいた」とか「子どもが熱を出した」が多かったです。「ぎっくり腰になった」というのもよくありました。

ある日20代の男性教師が欠席の連絡をしてきました。私より少し年上です。私が出ると彼は言いました。「今日は頭が悪いので休みます」と。もちろん「頭が痛いので」の言い間違いだとはわかりましたが、わたしは電話口で大笑いしました。

家族からの電話で思い出すのは愛妻家として知られる学年主任の奥様からの電話です。夕方、勤務時間が終了する間際にかかってきていつもこう言いました、「お世話になっております。〇〇の家内ですが、帰りに✕✕(地名)で牛乳を買ってくるよう主人にお伝えいただけませんでしょうか」私はこれ以外のセリフを聞いたことがありません。上品な話し方で素敵な女性なんだろうなと思っていました。ただ、どうしていつも牛乳なのか不思議でした。学年主任にも聞いたことはありません。なぜか聞いてはいけないような気がしたからです。謎は結局わからずじまいでしたが、今も牛乳を飲むとその電話を思い出します。

もうひとつ忘れられない電話があります。他校の男性校長からの電話です。「A中学校の○○でございます」とお手本通りに応対すると(新採用研修のマニュアルに載っている)名乗りもせずにいきなり「あのさぁ、校長さん呼んでくれない」と言うのです。「あのさぁ」はないだろうと思いましたが、「失礼ですがどちら様でしょうか」と静かに聞き返すと「○○中の✕✕だよ」とつっけんどんな言い方で名乗りました。自分のことがわからない方がおかしいとでも言いたげです。校長にもこんな人がいるんだ。新米教師の私にはとても勉強になりました。

最近の学校の電話事情はどうなっているのでしょう。


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